6 / 27
6.
しおりを挟む
後宮入りして約一ヵ月が過ぎた。
今日は五度目の訪問となる。
もういっそ大股開きの調理待ち状態でいてやろうかとも思ったが、流石に部屋に入ってすぐ局部丸出しの娘というのも間抜けなので、一応王様に会釈をしてからにした。
のそりと侵入してきた王様は、いつも以上に覇気がない。
なんだか日に日に死体っぽくなっている気がする。
彼に関する謎は解明されないままだ。
機械のような味気ない行為だが、粗雑でも乱暴でもない。
向上心は全く見られないが、下手なりに頑張っているのかもしれない。
それにしても相変わらず不景気な顔をしている。
王宮内で贅沢三昧してツヤツヤしているのではないのか。
それとも贅沢しすぎて逆に胃腸をやられているのか。
緩く揺すられている間、することもないので思考を巡らす。
完全に心ここにあらずといった調子だったが、王様もそんな感じなのでお互い様だ。
さすがに持ち込んだ本を読みだしたら怒られるかもしれないのでそれはしない。
それくらいの分別はある。
「……っ、」
どうやら果てたらしい。
王様の動きが止まる。
いつもならここでさっさと身支度を整えて出ていくのに、今日はなぜかしばらく上に覆いかぶさる姿勢のまま動かない。
「……陛下?」
不審に思い声を掛けると、王様がノロノロと顔を上げた。
「……すまない、眩暈がして」
死にそうな顔だ。焦点が合っていない。
「いやあのお顔の色がかなりまずい感じですが」
これかなりやばいやつだ。
とっさに王様の下から抜け出して、トンと肩を押したらべしゃりとベッドに崩れ落ちた。
上手く力が入らないらしい。
「宮廷医を呼びます」
「……必要ない」
呻くように言って起き上がろうと試みる。
けれどそれは成功しなかった。
「いや寝てろっての」
私が上から押さえつけたからだ。
「そんな時間は……」
言いつつも、完全に無礼な物言いをした私にキレる気力もないのか、辛そうに目を閉じる。
どうしようか迷いつつ、とりあえず股がドロドロなので拭って手早く身支度を整える。
よく考えてみれば王様のあそこ事後のまま丸出しだなと気付いて、ウヘェっとなったがとりあえず無視をした。
王様はベッドのうつ伏せている。
丁度いい。
私の真価を発揮させてもらおう。
「ちょっと失礼しますよ」
「うぐっ」
王様の腰に跨り、パキリと手の関節を鳴らす。
「なにを……」
「触診みたいなものだと思ってください」
養父に拾われて三年。
盲目の按摩師の助手として生きていた。
お人好しの養父が、ほとんどボランティアみたいな安い料金で施術してきたが、評判が良かったから生活はギリギリ成り立っていた。
貧民街にも関わらず繁盛していたのは、養父の腕が良かったからだ。
私は少しでも役に立ちたくて、気のいいおっちゃんたちを実験台に必死に勉強をしてきた。
さすがに養父ほどとは言わないが、それなりの腕であるとの自負がある。
内臓が悪いなら、ツボを刺激すればどこが悪いかくらいの見当はつくかもしれない。
施術開始数秒で、低い呻きは安らかな寝息に変わった。
少し触った感じ、どこもかしこも悪そうな感じだ。
本当に何なんだろうこの人は。
急死した先王の空席を埋めるために、急遽適当に指名された王なのだろうか。
次の王が決まるまでの繋ぎにするために、病弱で無能で野心のない人が選ばれたとかかもしれない。
それでプレッシャーで不眠とか?
あ、だから勃ちも悪いのか。
聞かれたら打ち首もののことを考えながら、寝落ちした王様に配慮しつつお仕事モードで施術を続けることにした。
今日は五度目の訪問となる。
もういっそ大股開きの調理待ち状態でいてやろうかとも思ったが、流石に部屋に入ってすぐ局部丸出しの娘というのも間抜けなので、一応王様に会釈をしてからにした。
のそりと侵入してきた王様は、いつも以上に覇気がない。
なんだか日に日に死体っぽくなっている気がする。
彼に関する謎は解明されないままだ。
機械のような味気ない行為だが、粗雑でも乱暴でもない。
向上心は全く見られないが、下手なりに頑張っているのかもしれない。
それにしても相変わらず不景気な顔をしている。
王宮内で贅沢三昧してツヤツヤしているのではないのか。
それとも贅沢しすぎて逆に胃腸をやられているのか。
緩く揺すられている間、することもないので思考を巡らす。
完全に心ここにあらずといった調子だったが、王様もそんな感じなのでお互い様だ。
さすがに持ち込んだ本を読みだしたら怒られるかもしれないのでそれはしない。
それくらいの分別はある。
「……っ、」
どうやら果てたらしい。
王様の動きが止まる。
いつもならここでさっさと身支度を整えて出ていくのに、今日はなぜかしばらく上に覆いかぶさる姿勢のまま動かない。
「……陛下?」
不審に思い声を掛けると、王様がノロノロと顔を上げた。
「……すまない、眩暈がして」
死にそうな顔だ。焦点が合っていない。
「いやあのお顔の色がかなりまずい感じですが」
これかなりやばいやつだ。
とっさに王様の下から抜け出して、トンと肩を押したらべしゃりとベッドに崩れ落ちた。
上手く力が入らないらしい。
「宮廷医を呼びます」
「……必要ない」
呻くように言って起き上がろうと試みる。
けれどそれは成功しなかった。
「いや寝てろっての」
私が上から押さえつけたからだ。
「そんな時間は……」
言いつつも、完全に無礼な物言いをした私にキレる気力もないのか、辛そうに目を閉じる。
どうしようか迷いつつ、とりあえず股がドロドロなので拭って手早く身支度を整える。
よく考えてみれば王様のあそこ事後のまま丸出しだなと気付いて、ウヘェっとなったがとりあえず無視をした。
王様はベッドのうつ伏せている。
丁度いい。
私の真価を発揮させてもらおう。
「ちょっと失礼しますよ」
「うぐっ」
王様の腰に跨り、パキリと手の関節を鳴らす。
「なにを……」
「触診みたいなものだと思ってください」
養父に拾われて三年。
盲目の按摩師の助手として生きていた。
お人好しの養父が、ほとんどボランティアみたいな安い料金で施術してきたが、評判が良かったから生活はギリギリ成り立っていた。
貧民街にも関わらず繁盛していたのは、養父の腕が良かったからだ。
私は少しでも役に立ちたくて、気のいいおっちゃんたちを実験台に必死に勉強をしてきた。
さすがに養父ほどとは言わないが、それなりの腕であるとの自負がある。
内臓が悪いなら、ツボを刺激すればどこが悪いかくらいの見当はつくかもしれない。
施術開始数秒で、低い呻きは安らかな寝息に変わった。
少し触った感じ、どこもかしこも悪そうな感じだ。
本当に何なんだろうこの人は。
急死した先王の空席を埋めるために、急遽適当に指名された王なのだろうか。
次の王が決まるまでの繋ぎにするために、病弱で無能で野心のない人が選ばれたとかかもしれない。
それでプレッシャーで不眠とか?
あ、だから勃ちも悪いのか。
聞かれたら打ち首もののことを考えながら、寝落ちした王様に配慮しつつお仕事モードで施術を続けることにした。
35
お気に入りに追加
2,555
あなたにおすすめの小説
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる