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SS
【書籍化記念SS】シャンパンの泡のように
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皆様のおかげでレジーナブックス様から3月末に書籍化することが決定いたしました。
本当にありがとうございます!
=====================
晩餐の用意が整いましたとメイドに呼ばれ、食堂へと降りていく。
「待ってミシェルお姉さま。一緒に行きましょう」
階段の途中で妹のソフィアが追い付いてきて、私の隣に並んだ。
「ねえ、ヴィンセント様ってとっても素敵な方ね。お姉さまったらいつお知り合いになったの?」
ワクワクした顔のソフィアが、婚約の挨拶で顔合わせをしたばかりのヴィンセントのことを聞いてくる。
「どこって……その、パーティーよ」
昼間から庭で飲んだくれていたなんて可愛い妹に言うわけにもいかず、当たり障りない嘘をつく。
「嘘でしょう。私、パーティーでヴィンセント様をお見掛けしたことありませんもの」
「あなたはデビューしたばかりでしょうソフィア。たまたまタイミングが合わなかっただけよ」
ちっとも信じてない顔でソフィアが唇を尖らせる。
少し前までは簡単に騙されてくれる素直な子だったのに、成長したものだ。
「私もあんな素敵な方と出会えるかしら」
「そうね。ソフィアなら選び放題よきっと」
「そんな……」
誇張ではなくそういうと、ソフィアが頬を染めて恥じらうようにうつむいた。
急造品の淑女だった私と違って、ソフィアは生まれつき可憐で可愛らしい。
デビュー後間もないにもかかわらず、すでに何人もの男性から打診がきているらしい。
その中から父が良い縁談を吟味している最中だ。
評判のよくない男性も混ざっているから、またソフィアの耳に入らないようにしているのだ。
食堂に着くと、使用人がドアを開けてくれた。
先に席についていたヴィンセントが、立ち上がってにこりと私に笑いかける。
両親のいる前だからか、それとも素面だからか。
いつもよりおすまし顔の彼に、心臓が高鳴るのを抑えられない。
「やっぱり素敵」
ソフィアが私にこっそり囁く。
それには完全に同意だけど、姉の威厳を保つために「そうね」と冷静なフリで答えた。
執事に誘導され、ヴィンセントの隣に座る。
「すごく綺麗だ」
晩餐用のフォーマルスタイルドレスに着替えた私を見て、ヴィンセントがさらりと言う。
「……ありがとう」
そっけなく礼を言う。
真顔を保つことにはなんとか成功したが、じわりと頬が熱くなるのは止められなかった。
前から思っていたけれど、ヴィンセントは女性の扱いがかなりスマートだ。
「昼間から飲む気満々のゆるい服装も好きだけど」
小声で付け足して、揶揄うような顔をこちらに向ける。
「あれは飲む気だからじゃなくて自宅の庭だから!」
言い返して睨むけれど、ヴィンセントは涼しい顔だ。
「さて、皆揃ったようだから始めようか」
なおも言い返そうとしたところで、父がグラスを持って立ち上がる。
それを合図に使用人たちがグラスに飲み物を注ぎ始めた。
「本日は我が家まで足を運んでくれてありがとう。知っての通り、娘のミシェルがヴィンセント王子と婚約いたしました」
親しい招待客たちに感謝の言葉を述べて、父が私たちのことを紹介する。
一斉に視線が集まって、つい気後れしてヴィンセントを見てしまう。
彼は優しい目で私を見ていた。
その目に励まされ、背筋を正してみんなの視線を受け止める。
注目されるのはあまり得意ではないけれど、彼らが私に向ける目は一様に温かい。
ナルシスとの一件で同情的だった人たちばかりだ。心からヴィンセントとの婚約を祝福してくれているのが伝わってくる。
「二人の幸せがこのシャンパンの泡のように長く続くことを願って」
乾杯、と父が言うのに合わせて全員が唱和する。
和やかな晩餐の始まりだ。
父の秘蔵のシャンパンはとても美味しくて、一口だけのつもりが一気に半分までいってしまった。
すかさず使用人が注ぎ足してくれる。
「君のとこの使用人、訓練され過ぎじゃない?」
「素直に有能だと褒められないわけ?」
「飲み過ぎないようにね」
「あなたこそ」
招待客たちからの祝福の言葉に笑顔で応えながら、ヴィンセントとコソコソ囁きを交わし合う。
「俺はミシェルに注がれなければそんなに飲まない」
「よく言うわ。ほっといても自分で勝手に注ぐくせに」
「ミシェルのペースに合わせてるんだよ」
いつもの調子で言い合う間にも、後ろに控えている使用人が私たちのグラスが空にならないようお酒を注ぎ足していく。
自分たちで注がないせいで、どれくらい飲んだかすぐに分からなくなってしまった。
「おまえたち……もう少しゆっくりシャンパンの味を楽しみなさい」
ハイペースで飲まれていく特級品のシャンパンに、切なそうな顔で父が言う。
「とても美味しいです、ぺルグラン公爵」
「今まで飲んだ中で一番よ」
二人揃っていい笑顔で答える。
事実、今まで飲んだ中で一番だ。
あまりに美味しくて、人前だから飲むペースを控えようとした決意が泡のように消えてしまったほどに。
「私たちのために素敵なお酒を用意してくれて本当にありがとう、お父様」
「そうか。おまえたちが気に入ってくれたならよかった」
心からの言葉を伝えれば、父は涙ぐんで笑ってくれた。
隣国にお嫁にいっても、こまめに里帰りをしよう。
父のために、いいお酒を携えて。
ありのままの私を愛してくれた父への感謝を胸に、心に固く誓った。
本当にありがとうございます!
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晩餐の用意が整いましたとメイドに呼ばれ、食堂へと降りていく。
「待ってミシェルお姉さま。一緒に行きましょう」
階段の途中で妹のソフィアが追い付いてきて、私の隣に並んだ。
「ねえ、ヴィンセント様ってとっても素敵な方ね。お姉さまったらいつお知り合いになったの?」
ワクワクした顔のソフィアが、婚約の挨拶で顔合わせをしたばかりのヴィンセントのことを聞いてくる。
「どこって……その、パーティーよ」
昼間から庭で飲んだくれていたなんて可愛い妹に言うわけにもいかず、当たり障りない嘘をつく。
「嘘でしょう。私、パーティーでヴィンセント様をお見掛けしたことありませんもの」
「あなたはデビューしたばかりでしょうソフィア。たまたまタイミングが合わなかっただけよ」
ちっとも信じてない顔でソフィアが唇を尖らせる。
少し前までは簡単に騙されてくれる素直な子だったのに、成長したものだ。
「私もあんな素敵な方と出会えるかしら」
「そうね。ソフィアなら選び放題よきっと」
「そんな……」
誇張ではなくそういうと、ソフィアが頬を染めて恥じらうようにうつむいた。
急造品の淑女だった私と違って、ソフィアは生まれつき可憐で可愛らしい。
デビュー後間もないにもかかわらず、すでに何人もの男性から打診がきているらしい。
その中から父が良い縁談を吟味している最中だ。
評判のよくない男性も混ざっているから、またソフィアの耳に入らないようにしているのだ。
食堂に着くと、使用人がドアを開けてくれた。
先に席についていたヴィンセントが、立ち上がってにこりと私に笑いかける。
両親のいる前だからか、それとも素面だからか。
いつもよりおすまし顔の彼に、心臓が高鳴るのを抑えられない。
「やっぱり素敵」
ソフィアが私にこっそり囁く。
それには完全に同意だけど、姉の威厳を保つために「そうね」と冷静なフリで答えた。
執事に誘導され、ヴィンセントの隣に座る。
「すごく綺麗だ」
晩餐用のフォーマルスタイルドレスに着替えた私を見て、ヴィンセントがさらりと言う。
「……ありがとう」
そっけなく礼を言う。
真顔を保つことにはなんとか成功したが、じわりと頬が熱くなるのは止められなかった。
前から思っていたけれど、ヴィンセントは女性の扱いがかなりスマートだ。
「昼間から飲む気満々のゆるい服装も好きだけど」
小声で付け足して、揶揄うような顔をこちらに向ける。
「あれは飲む気だからじゃなくて自宅の庭だから!」
言い返して睨むけれど、ヴィンセントは涼しい顔だ。
「さて、皆揃ったようだから始めようか」
なおも言い返そうとしたところで、父がグラスを持って立ち上がる。
それを合図に使用人たちがグラスに飲み物を注ぎ始めた。
「本日は我が家まで足を運んでくれてありがとう。知っての通り、娘のミシェルがヴィンセント王子と婚約いたしました」
親しい招待客たちに感謝の言葉を述べて、父が私たちのことを紹介する。
一斉に視線が集まって、つい気後れしてヴィンセントを見てしまう。
彼は優しい目で私を見ていた。
その目に励まされ、背筋を正してみんなの視線を受け止める。
注目されるのはあまり得意ではないけれど、彼らが私に向ける目は一様に温かい。
ナルシスとの一件で同情的だった人たちばかりだ。心からヴィンセントとの婚約を祝福してくれているのが伝わってくる。
「二人の幸せがこのシャンパンの泡のように長く続くことを願って」
乾杯、と父が言うのに合わせて全員が唱和する。
和やかな晩餐の始まりだ。
父の秘蔵のシャンパンはとても美味しくて、一口だけのつもりが一気に半分までいってしまった。
すかさず使用人が注ぎ足してくれる。
「君のとこの使用人、訓練され過ぎじゃない?」
「素直に有能だと褒められないわけ?」
「飲み過ぎないようにね」
「あなたこそ」
招待客たちからの祝福の言葉に笑顔で応えながら、ヴィンセントとコソコソ囁きを交わし合う。
「俺はミシェルに注がれなければそんなに飲まない」
「よく言うわ。ほっといても自分で勝手に注ぐくせに」
「ミシェルのペースに合わせてるんだよ」
いつもの調子で言い合う間にも、後ろに控えている使用人が私たちのグラスが空にならないようお酒を注ぎ足していく。
自分たちで注がないせいで、どれくらい飲んだかすぐに分からなくなってしまった。
「おまえたち……もう少しゆっくりシャンパンの味を楽しみなさい」
ハイペースで飲まれていく特級品のシャンパンに、切なそうな顔で父が言う。
「とても美味しいです、ぺルグラン公爵」
「今まで飲んだ中で一番よ」
二人揃っていい笑顔で答える。
事実、今まで飲んだ中で一番だ。
あまりに美味しくて、人前だから飲むペースを控えようとした決意が泡のように消えてしまったほどに。
「私たちのために素敵なお酒を用意してくれて本当にありがとう、お父様」
「そうか。おまえたちが気に入ってくれたならよかった」
心からの言葉を伝えれば、父は涙ぐんで笑ってくれた。
隣国にお嫁にいっても、こまめに里帰りをしよう。
父のために、いいお酒を携えて。
ありのままの私を愛してくれた父への感謝を胸に、心に固く誓った。
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シャンパンの泡のように🥂初期化かと合わせておめでたい‼️🎉✨😆✨🎊シャンパンの泡のように後からあとから立ち上る泡のように良い時が続きますように🥂。
ありがとうございます!シャンパンの泡のようにってすごく素敵な言葉ですよね🥳🍾
書籍化おめでとうございます🎉🎉🎉
ありがとうございます!
表紙がとにかく最高なので、書影が公開されましたらご覧いただけると嬉しいです☺
書籍化おめでとうございます。大好きな作品なので自分のことのように嬉しいです。
これはいいお酒で祝わなければ!
飲まれっぱなしのパパンにもいいお酒を補充してあげてください…笑
ありがとうございます!そう言っていただけてとても嬉しいです!😆
きっと結婚後は里帰りのたびミシェルが選んだお酒とヴィンセントが選んだお酒で保管庫が潤うことでしょう…✨