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マティアスは私の存在を告げていない。
ならばカレンが誰に憚ることなく距離を縮めるのにも納得だ。
彼女にとっては知らない世界で優しくしてくれて、いろんなことを教えてくれる男性なのだ。
しかもあちらの世界の美醜基準では分からないがマティアスは文句なしの美男子で、それに地位も高い。
婚約者というストッパーの存在を知らなければ、好きになってしまうのも無理はない。
「ごめんなさい、私本当に知らなくて……私の世界では学生同士で婚約とか、漫画の中でしかなかったっていうか」
マンガが何かは分からないが、おそらく物語とか舞台とかそういった架空のものなのだろう。
「ううん、そんなの言い訳にもならないよね、本当にごめんなさい。私最悪だ」
今にも泣きそうな顔で言われて胸が痛くなってくる。
彼女は何も悪くなかったのだ。
何も知らずに、ただ自分に優しくしてくれた人を愛しただけ。
「いやカレン、お前が謝る必要は」
オロオロと彼女をフォローしようとするマティアスを、カレンがギロリと睨みつける。
「つうかあんたも最悪。何黙ってんのよ。婚約者がいるならいるって言いなさいよ! 知らないうちに間女にされるなんて最低だよ!」
「ひっ」
カレンの剣幕に、マティアスが恐れ慄いたように仰け反る。
「謝る必要ないだぁ!? ふざけんなお前こそ謝れよ全力で!」
襟首をつかんでガクガク自分を揺さぶるカレンに、マティアスはびっくりして声も出ない様子だ。
今までカレンがこんなふうに声を荒らげることはなかったから、本気で怯えているようだ。
これまで淑女らしくない口調に苦言を呈してきたけれど、あれでもかなり努力している方だったらしい。
「カ、カレンさん、落ち着いてください」
今にもマティアスを引っ叩いてしまいそうなカレンを慌てて止める。
仮にも彼は王太子なので、このままでは不敬罪で捕まってしまう。
「優しすぎますよヨハンナ様!」
マティアスを締め上げたまま涙目でカレンがこちらを見る。
「この男はあなたというものがありながら他の女を口説いてきたんですよ!? しかも公衆の面前で婚約破棄なんてヨハンナ様に恥をかかすような真似までして! 最低最悪ですよ!」
「……あなたが望んだのではなくて?」
「ひどい! そこまで根性ねじ曲がってませんよ!」
疑われたのがショックだったらしく、カレンが青褪める。
確かに婚約自体知らなかったのだから、彼女がこんなひどいこと思いつくはずもない。
「だいたいなんでみんな言ってくれないんですか!? ヨハンナ様が婚約者だって知ってたら絶対マティアス様になんか近づかなかったのに!」
王子の襟首を掴んだまま、カレンは悲愴な顔で周囲を見回す。
「その……王太子殿下に口止めされていて……」
「私も……」
「僕はもしバラしたら未来はないと脅されました」
カレンの剣幕に気圧されたのか、生徒たちがおずおず進み出て真相を告げる。
それを聞いて、カレンが聖女らしからぬ形相でマティアスを睨みつけた。
「はぁ~信じらんない! あんたどこまで腐ってんの!?」
「ごっ、ごめんなさい!」
矛先が再び自分に向いて、マティアスが涙目になる。
「謝る相手が違うでしょうが!」
「ごめんなさい!!」
カレンに怒鳴られて、マティアスが情けない顔で私に謝った。
その顔があまりにしょっぱくて、なんだかもう何もかもが急にどうでもよくなってしまった。
ならばカレンが誰に憚ることなく距離を縮めるのにも納得だ。
彼女にとっては知らない世界で優しくしてくれて、いろんなことを教えてくれる男性なのだ。
しかもあちらの世界の美醜基準では分からないがマティアスは文句なしの美男子で、それに地位も高い。
婚約者というストッパーの存在を知らなければ、好きになってしまうのも無理はない。
「ごめんなさい、私本当に知らなくて……私の世界では学生同士で婚約とか、漫画の中でしかなかったっていうか」
マンガが何かは分からないが、おそらく物語とか舞台とかそういった架空のものなのだろう。
「ううん、そんなの言い訳にもならないよね、本当にごめんなさい。私最悪だ」
今にも泣きそうな顔で言われて胸が痛くなってくる。
彼女は何も悪くなかったのだ。
何も知らずに、ただ自分に優しくしてくれた人を愛しただけ。
「いやカレン、お前が謝る必要は」
オロオロと彼女をフォローしようとするマティアスを、カレンがギロリと睨みつける。
「つうかあんたも最悪。何黙ってんのよ。婚約者がいるならいるって言いなさいよ! 知らないうちに間女にされるなんて最低だよ!」
「ひっ」
カレンの剣幕に、マティアスが恐れ慄いたように仰け反る。
「謝る必要ないだぁ!? ふざけんなお前こそ謝れよ全力で!」
襟首をつかんでガクガク自分を揺さぶるカレンに、マティアスはびっくりして声も出ない様子だ。
今までカレンがこんなふうに声を荒らげることはなかったから、本気で怯えているようだ。
これまで淑女らしくない口調に苦言を呈してきたけれど、あれでもかなり努力している方だったらしい。
「カ、カレンさん、落ち着いてください」
今にもマティアスを引っ叩いてしまいそうなカレンを慌てて止める。
仮にも彼は王太子なので、このままでは不敬罪で捕まってしまう。
「優しすぎますよヨハンナ様!」
マティアスを締め上げたまま涙目でカレンがこちらを見る。
「この男はあなたというものがありながら他の女を口説いてきたんですよ!? しかも公衆の面前で婚約破棄なんてヨハンナ様に恥をかかすような真似までして! 最低最悪ですよ!」
「……あなたが望んだのではなくて?」
「ひどい! そこまで根性ねじ曲がってませんよ!」
疑われたのがショックだったらしく、カレンが青褪める。
確かに婚約自体知らなかったのだから、彼女がこんなひどいこと思いつくはずもない。
「だいたいなんでみんな言ってくれないんですか!? ヨハンナ様が婚約者だって知ってたら絶対マティアス様になんか近づかなかったのに!」
王子の襟首を掴んだまま、カレンは悲愴な顔で周囲を見回す。
「その……王太子殿下に口止めされていて……」
「私も……」
「僕はもしバラしたら未来はないと脅されました」
カレンの剣幕に気圧されたのか、生徒たちがおずおず進み出て真相を告げる。
それを聞いて、カレンが聖女らしからぬ形相でマティアスを睨みつけた。
「はぁ~信じらんない! あんたどこまで腐ってんの!?」
「ごっ、ごめんなさい!」
矛先が再び自分に向いて、マティアスが涙目になる。
「謝る相手が違うでしょうが!」
「ごめんなさい!!」
カレンに怒鳴られて、マティアスが情けない顔で私に謝った。
その顔があまりにしょっぱくて、なんだかもう何もかもが急にどうでもよくなってしまった。
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