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24 捕虜による拷問②
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「おい、まさかそれで終わるつもりか?」
本日はもう終了とばかりにつまらなそうな顔のアシュリーに、ランドルフが問う。
「そんな情報とっくに知っている。別の情報をよこせ。それと礼なら拷問品を横流しするな」
喜色を滲ませるジゼルの前に化粧ブランドの紙袋を置いてやりながら、しょぼすぎる情報にランドルフが言い返す。
「拷問内容の選択を間違ったのはあなたです。納得がいかないというのならやり直しを要求しますわ」
「だがそれをジゼルにやったのだろう? なら拷問を受けたも同然だ」
「うぐっ」
負けじと言い返すと、アシュリーが珍しく悔しそうな顔になった。
「え、ではこちらはお返しします……」
それを見て、ジゼルがものすごく悲しそうな顔で化粧品一式をアシュリーの方に押し返す。
ジゼルもアストラリスの国民なら敵国民が情報を吐くよう協力すべきなのに、欲しいものを耐えてでもアシュリーが不利にならないようしたいらしい。
一体どうやってここまで懐柔したんだ。
「……王女に二言はありません。それはジゼル、あなたのものよ」
悩まし気に眉根を寄せて、アシュリーがやり直し要求を取り下げる。
こちらもこちらで、幸せになる拷問を一回分パスしてでもジゼルの喜びを優先したいらしい。
「では、これはサービスですわよ? ――年の離れた腹違いの弟は天使のように可愛い」
「心底どうでもいい」
またしてもしょぼい情報を、まるで重大機密のような深刻な表情で言うアシュリーに呆れてしまう。
まるで百歩どころか一万歩くらい譲ったかのようだ。
その横で「ありがとうございます」を連呼するジゼルに、ロランが「良かったですね」と言いながら丁寧に化粧品を紙袋に詰め直してやっている。
「今年七歳でね、入ってはダメだと言われているのにこっそりわたくしの部屋にくるんですの」
「聞け。その情報はいらないんだ」
「それで少し前までは『おねーたま』って舌っ足らずに呼んでたのにもうすっかり『お姉さま』って発音できるように」
ランドルフが止めてもアシュリーは止まらず、いかに弟が可愛くて優秀かを語り続けている。
本当にどうでもいい。
「分かった分かった。俺の拷問が悪かった。出直すから落ち着け」
無限に続きそうなことにうんざりして慌てて阻止すると、アシュリーがようやく喋るのをやめた。
「一晩中語り明かせますのに」
不服そうに唇を尖らせてアシュリーが言う。
「まったく。普通ならジゼルのように大喜びするというのに」
この拷問が不発に終わるだろうことは想定済みだったが、予想を上回るしょうもなさに苦笑してしまう。
「あら、わたくしはカラプタリアの王女ですのよ? 普通の範疇に収まる女ではございませんわ」
お高く止まってアシュリーが言う。
ドレスも貴金属も喜ばなかった女だ。
化粧品も似たような反応を示すだろうとは思っていた。
そんなことは分かりきっていて、だからロランも何も言わなかったのだろう。
上司の考えることなどお見通しなのだ。
そう、こんなのはただの先延ばしでしかない。
本当に情報を搾り取りたいなら、もっと分かりやすく待遇を上げればいいだけなのだ。
国王陛下を支える宰相として、国益を第一に考えるべきなのに。
「次の拷問までに情報を温めておけよ」
罪悪感を覚えながら、ランドルフは取り繕うように言う。
「ねえ、わたくしばかり秘密を話して、不公平だと思いませんこと?」
今日の拷問はもうおしまいだとお茶で一服し始めたランドルフを見て、アシュリーが不満そうに言う。
不公平も何も、捕虜と拷問官なのだから公平であるはずもない。
「ここまでふてぶてしい捕虜は初めて見るな」
呆れて言うと、褒められたと勘違いしたのかアシュリーがふふんと得意げに笑った。
「王族というものは敵中に囚われても誇りを失わないものですわ!」
「おまえはもう少し謙虚さというものを覚えるべきだ」
アシュリーに茶を淹れながらジゼルがクスクス笑っている。
火傷の一件以来、この二人はさらに仲が良くなっているらしい。
「秘密を知りたいなら拷問してみるがいい」
「よろしいのですか!?」
挑発するように言えば、アシュリーが今までで一番と言えるほどに目を輝かせた。
本日はもう終了とばかりにつまらなそうな顔のアシュリーに、ランドルフが問う。
「そんな情報とっくに知っている。別の情報をよこせ。それと礼なら拷問品を横流しするな」
喜色を滲ませるジゼルの前に化粧ブランドの紙袋を置いてやりながら、しょぼすぎる情報にランドルフが言い返す。
「拷問内容の選択を間違ったのはあなたです。納得がいかないというのならやり直しを要求しますわ」
「だがそれをジゼルにやったのだろう? なら拷問を受けたも同然だ」
「うぐっ」
負けじと言い返すと、アシュリーが珍しく悔しそうな顔になった。
「え、ではこちらはお返しします……」
それを見て、ジゼルがものすごく悲しそうな顔で化粧品一式をアシュリーの方に押し返す。
ジゼルもアストラリスの国民なら敵国民が情報を吐くよう協力すべきなのに、欲しいものを耐えてでもアシュリーが不利にならないようしたいらしい。
一体どうやってここまで懐柔したんだ。
「……王女に二言はありません。それはジゼル、あなたのものよ」
悩まし気に眉根を寄せて、アシュリーがやり直し要求を取り下げる。
こちらもこちらで、幸せになる拷問を一回分パスしてでもジゼルの喜びを優先したいらしい。
「では、これはサービスですわよ? ――年の離れた腹違いの弟は天使のように可愛い」
「心底どうでもいい」
またしてもしょぼい情報を、まるで重大機密のような深刻な表情で言うアシュリーに呆れてしまう。
まるで百歩どころか一万歩くらい譲ったかのようだ。
その横で「ありがとうございます」を連呼するジゼルに、ロランが「良かったですね」と言いながら丁寧に化粧品を紙袋に詰め直してやっている。
「今年七歳でね、入ってはダメだと言われているのにこっそりわたくしの部屋にくるんですの」
「聞け。その情報はいらないんだ」
「それで少し前までは『おねーたま』って舌っ足らずに呼んでたのにもうすっかり『お姉さま』って発音できるように」
ランドルフが止めてもアシュリーは止まらず、いかに弟が可愛くて優秀かを語り続けている。
本当にどうでもいい。
「分かった分かった。俺の拷問が悪かった。出直すから落ち着け」
無限に続きそうなことにうんざりして慌てて阻止すると、アシュリーがようやく喋るのをやめた。
「一晩中語り明かせますのに」
不服そうに唇を尖らせてアシュリーが言う。
「まったく。普通ならジゼルのように大喜びするというのに」
この拷問が不発に終わるだろうことは想定済みだったが、予想を上回るしょうもなさに苦笑してしまう。
「あら、わたくしはカラプタリアの王女ですのよ? 普通の範疇に収まる女ではございませんわ」
お高く止まってアシュリーが言う。
ドレスも貴金属も喜ばなかった女だ。
化粧品も似たような反応を示すだろうとは思っていた。
そんなことは分かりきっていて、だからロランも何も言わなかったのだろう。
上司の考えることなどお見通しなのだ。
そう、こんなのはただの先延ばしでしかない。
本当に情報を搾り取りたいなら、もっと分かりやすく待遇を上げればいいだけなのだ。
国王陛下を支える宰相として、国益を第一に考えるべきなのに。
「次の拷問までに情報を温めておけよ」
罪悪感を覚えながら、ランドルフは取り繕うように言う。
「ねえ、わたくしばかり秘密を話して、不公平だと思いませんこと?」
今日の拷問はもうおしまいだとお茶で一服し始めたランドルフを見て、アシュリーが不満そうに言う。
不公平も何も、捕虜と拷問官なのだから公平であるはずもない。
「ここまでふてぶてしい捕虜は初めて見るな」
呆れて言うと、褒められたと勘違いしたのかアシュリーがふふんと得意げに笑った。
「王族というものは敵中に囚われても誇りを失わないものですわ!」
「おまえはもう少し謙虚さというものを覚えるべきだ」
アシュリーに茶を淹れながらジゼルがクスクス笑っている。
火傷の一件以来、この二人はさらに仲が良くなっているらしい。
「秘密を知りたいなら拷問してみるがいい」
「よろしいのですか!?」
挑発するように言えば、アシュリーが今までで一番と言えるほどに目を輝かせた。
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