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18 王国祭デート①

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祭りの当日は、気持ちまで明るくなるような晴天だった。

午前中は仕事にかかりきりだった。
慌ただしく時間が過ぎていき、あとのことをロランに引き継いでようやく解放される頃にはすでに日が暮れ始めていた。

「遅いですわよ!」

監獄塔に行くと、憤慨した顔で仁王立ちするアシュリーに出迎えられた。

「早く行かなくてはお祭りが終わってしまいます!」

じたんだを踏む勢いのアシュリーに責められて、ランドルフはたじろぐ。
ジゼルが支度をしたのだろう。よく見れば髪も服も綺麗に整えられ、準備万端の態勢だった。
よほど祭りを楽しみにしていたらしい。

「落ち着け。祭りならむしろこれからが本番だ」

宥めるように言うと、アシュリーは「そうなんですの?」ときょとんとした顔で言った。

ランドルフが言った通り、王国祭の前半はほとんどの国民にとっては退屈なものだ。

まず、王城の前に国民が集い、バルコニーに姿を現した国王陛下のありがたい話を拝聴する。
それから収支報告だの今後の方針だの、日々を生きるので精一杯の庶民にとってはどうでもいい長話がランドルフたち文官によってなされるのだ。

それらが終わってから、ようやく国民たちにとってのお楽しみが始まる手筈となっていた。

「そんなの聞いていませんわ!」

アストラリス国民なら常識のそれを、カラプタリア人のアシュリーは知らない。
そのことを失念していたことに、ランドルフはようやく思い至った。

「悪かった。説明不足だったな」
「まったく。楽しみすぎていつもより早く目覚めてワクワクし通しだったわたくしの午前を返してくださいまし」
「分かった分かった。その分を帳消しにするくらい楽しませてやるから」

子供みたいな怒り方をするアシュリーを苦笑しながら宥める。

「嘘でしたら今日の情報は無しですわよ」

駆け引きめいたことを言われてランドルフは笑う。

「いいやおまえは絶対に話したくなる。誓ってもいい」
「そ、そんなに素晴らしいものですの……?」

自信満々に言うと、アシュリーがキラキラと目を輝かせ始めた。
もう機嫌は直ったらしい。

「ああ。期待しておけ」

各国からの交易品や食べ物屋台が集まるだけの大市であのはしゃぎようだ。
その何百倍も予算を割いている王国祭に、アシュリーが喜ばないはずがない。

「まずは屋外演芸場に行くぞ」

時計は十四時を指している。
この時間なら、中央広場のステージで新進気鋭の劇団やら有名な大道芸人やらが、あの手この手で祭りの客を楽しませているはずだ。

「楽しみですわ!」
「はしゃぎすぎて前みたいにコケるなよ」

素直に感情を見せるアシュリーに、ランドルフも自然と笑顔になる。

彼女の前で恐ろしい宰相を演じるのはもうやめた。
アシュリーにはまったく効果がなくて、急に馬鹿らしくなったのだ。

それにこの方がアシュリーの態度も柔らかくなる。

いまだ底知れなさの正体は分からない。
それでもランドルフが自然体で振る舞った方が、アシュリーも素に近い表情を見せてくれている気がした。
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