17 / 45
16 なにが真実か②
しおりを挟む
今日はどんな拷問にしようか。
考えながら、ランドルフは足早に監獄等を目指す。
忙しいからあまり時間はかけられない。
そうだ、祭りが近いということは花が咲き乱れる季節ということだ。
ならば城の庭園に連れていくのはどうか。
部屋に花を飾ったら喜んでいたとジゼルが言っていたから、きっと大喜びで秘密を話すはずだ。
名案を思い付いてランドルフの足取りが軽くなる。
「入るぞ」
塔の三階辿り着き、鍵を開けながら声を掛ける。
扉を開くと、窓辺に置いた椅子に腰かけ外を眺めていたらしいアシュリーがこちらを向いた。
「お疲れのようですわね」
微かに笑うその顔に、ホッと肩の力が抜ける。
「別に疲れてなど」
笑いながら否定して、ランドルフは部屋に入っていく。
アシュリーがアストラリスに囚われてから約一ヶ月が経過していた。
その間にすっかり気安い関係になってしまった気がする。
囚人と看守という立場のはずなのに、これではまるでただの知人のようだ。
「うそ。顔色が優れないもの。寝てらっしゃらないのではなくて?」
ソファに移動しながらアシュリーが言って、部屋に控えていたジゼルに二人分の紅茶を用意するよう指示を出す。
ジゼルに向けるアシュリーの表情は柔らかく、応えるジゼルも柔らかな微笑を返した。
いつの間にか主従の絆のようなものができているらしいことに少し驚く。
アシュリーはともかく、ジゼルは少し前まであんなに硬い表情をしていたのに。
携帯コンロに魔力を通して着火し、ケトルでお湯を沸かし始めるジゼルを観察しながらそんなことを思う。
「お祭りの準備で忙しいのでしょう。宰相様がほぼすべてを取り仕切ってらっしゃるのだとか」
アシュリーの正面に腰掛けながら「大したことではない」と笑う。
確かに睡眠は足りていなかったが、強がりではない。
ここにくると、不思議とリラックスして疲れが取れる気がするのだ。
「先日の大市より大規模な市が立つのでしょう? あれより賑やかなんて信じられませんわ」
「カラプタリアにもあれくらいの催しはあるだろう。貴様も一国の王女なら少しくらい市井の催事を把握しておけ」
苦笑しながら言うと、アシュリーは曖昧な笑みを浮かべて「返す言葉もありませんわ」と殊勝なことを言った。
それからアシュリーは数日前の大市での思い出を嬉しそうに話し、祭りの想像に胸を馳せた。
「宰相様がこんなに頑張っているのだもの。きっと素晴らしいお祭りになるのでしょうね」
「当たり前だ。せいぜい秘密を温めておくがいい」
「ふふ、そうね。なにをお話ししようかしら」
アシュリーのワクワクした顔を見ていると、仕事の疲れがまた少し軽くなった気がした。
「ロラン様が言っていましたわ。あなたは平気で無茶をすると」
なにが楽しいのか、アシュリーがクスクス笑いながら言う。
「無茶など。少しは寝ている」
ランドルフがムッとしながら答える。
ここにいないロランの名前が出てきたことに、なんとなく面白くない気持ちになったのだ。
「そんなことより今日は拷問をしに来た。外に出るからすぐに準備しろ」
おもむろに話題を変え、ぶっきらぼうに言って立ち上がる。
「今からですの?」
ランドルフからの急な指示に、慌ててアシュリーが立ち上がった。
「きゃっ」
お茶を淹れるために沸いたばかりのお湯の入ったケトルと茶器を運んできていたジゼルとぶつかった。
ガチャンと大きな音を立ててトレイが傾く。
その拍子にさかんに湯気が立ち上るケトルが倒れ、アシュリーの腕にぶつかった。
「アシュリー!」
「アシュリー様!!」
大量の熱湯がアシュリーにかかって、ジゼルが青い顔で悲鳴を上げる。
「あら大変。ジゼル、あなたにはかからなかった?」
対するアシュリーは、自分の腕に熱湯がかかったことに気づいてないみたいな顔でそんなことを言った。
「馬鹿者! 他人の心配をしている場合か!」
怒鳴るように言って、ランドルフは大急ぎでアシュリーに近付く。
大変なことになっていた。
アシュリーの腕は真っ赤に爛れて、白く美しかった肌が見るも無残な状態だ。
だというのに当の本人は眉一つ動かさず、呑気に粗相したメイドの心配をしているのだ。
その異様な光景に、ジゼルが恐怖に近い顔で固まっている。
「ジゼル、タオルを取ってこい。今すぐだ」
「はっ、はい!」
短く指示を出せば、反射のように返事をしてジゼルが部屋を飛び出していった。
考えながら、ランドルフは足早に監獄等を目指す。
忙しいからあまり時間はかけられない。
そうだ、祭りが近いということは花が咲き乱れる季節ということだ。
ならば城の庭園に連れていくのはどうか。
部屋に花を飾ったら喜んでいたとジゼルが言っていたから、きっと大喜びで秘密を話すはずだ。
名案を思い付いてランドルフの足取りが軽くなる。
「入るぞ」
塔の三階辿り着き、鍵を開けながら声を掛ける。
扉を開くと、窓辺に置いた椅子に腰かけ外を眺めていたらしいアシュリーがこちらを向いた。
「お疲れのようですわね」
微かに笑うその顔に、ホッと肩の力が抜ける。
「別に疲れてなど」
笑いながら否定して、ランドルフは部屋に入っていく。
アシュリーがアストラリスに囚われてから約一ヶ月が経過していた。
その間にすっかり気安い関係になってしまった気がする。
囚人と看守という立場のはずなのに、これではまるでただの知人のようだ。
「うそ。顔色が優れないもの。寝てらっしゃらないのではなくて?」
ソファに移動しながらアシュリーが言って、部屋に控えていたジゼルに二人分の紅茶を用意するよう指示を出す。
ジゼルに向けるアシュリーの表情は柔らかく、応えるジゼルも柔らかな微笑を返した。
いつの間にか主従の絆のようなものができているらしいことに少し驚く。
アシュリーはともかく、ジゼルは少し前まであんなに硬い表情をしていたのに。
携帯コンロに魔力を通して着火し、ケトルでお湯を沸かし始めるジゼルを観察しながらそんなことを思う。
「お祭りの準備で忙しいのでしょう。宰相様がほぼすべてを取り仕切ってらっしゃるのだとか」
アシュリーの正面に腰掛けながら「大したことではない」と笑う。
確かに睡眠は足りていなかったが、強がりではない。
ここにくると、不思議とリラックスして疲れが取れる気がするのだ。
「先日の大市より大規模な市が立つのでしょう? あれより賑やかなんて信じられませんわ」
「カラプタリアにもあれくらいの催しはあるだろう。貴様も一国の王女なら少しくらい市井の催事を把握しておけ」
苦笑しながら言うと、アシュリーは曖昧な笑みを浮かべて「返す言葉もありませんわ」と殊勝なことを言った。
それからアシュリーは数日前の大市での思い出を嬉しそうに話し、祭りの想像に胸を馳せた。
「宰相様がこんなに頑張っているのだもの。きっと素晴らしいお祭りになるのでしょうね」
「当たり前だ。せいぜい秘密を温めておくがいい」
「ふふ、そうね。なにをお話ししようかしら」
アシュリーのワクワクした顔を見ていると、仕事の疲れがまた少し軽くなった気がした。
「ロラン様が言っていましたわ。あなたは平気で無茶をすると」
なにが楽しいのか、アシュリーがクスクス笑いながら言う。
「無茶など。少しは寝ている」
ランドルフがムッとしながら答える。
ここにいないロランの名前が出てきたことに、なんとなく面白くない気持ちになったのだ。
「そんなことより今日は拷問をしに来た。外に出るからすぐに準備しろ」
おもむろに話題を変え、ぶっきらぼうに言って立ち上がる。
「今からですの?」
ランドルフからの急な指示に、慌ててアシュリーが立ち上がった。
「きゃっ」
お茶を淹れるために沸いたばかりのお湯の入ったケトルと茶器を運んできていたジゼルとぶつかった。
ガチャンと大きな音を立ててトレイが傾く。
その拍子にさかんに湯気が立ち上るケトルが倒れ、アシュリーの腕にぶつかった。
「アシュリー!」
「アシュリー様!!」
大量の熱湯がアシュリーにかかって、ジゼルが青い顔で悲鳴を上げる。
「あら大変。ジゼル、あなたにはかからなかった?」
対するアシュリーは、自分の腕に熱湯がかかったことに気づいてないみたいな顔でそんなことを言った。
「馬鹿者! 他人の心配をしている場合か!」
怒鳴るように言って、ランドルフは大急ぎでアシュリーに近付く。
大変なことになっていた。
アシュリーの腕は真っ赤に爛れて、白く美しかった肌が見るも無残な状態だ。
だというのに当の本人は眉一つ動かさず、呑気に粗相したメイドの心配をしているのだ。
その異様な光景に、ジゼルが恐怖に近い顔で固まっている。
「ジゼル、タオルを取ってこい。今すぐだ」
「はっ、はい!」
短く指示を出せば、反射のように返事をしてジゼルが部屋を飛び出していった。
126
お気に入りに追加
890
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる