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8 極上の捕虜生活②

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ランドルフが今後の処遇を伝えると、アシュリーは動じることなく笑った。

「なるほど。貴族の罪人用の監禁部屋、といったところかしら」

それも予想通りだったのだろう。納得したように彼女は頷く。

「ついて来い」

やや不機嫌にランドルフが言う。
別に感謝しろという気はなかったが、こうも当然のように受け止められるとなんだか面白くない。

途中通りかかった雑居房の中から、アシュリーに向けた下種な歓声が上がる。
女の囚人が珍しいわけでもないのに奴らが反応するのは、やはりアシュリーに他の囚人とはどこか異質なものを感じるからだろう。

振り返ってアシュリーの反応を見るが、彼女は涼しい顔のまま囚人たちの歓声を受け流していた。

「わたくしを丁重にもてなすことが次の拷問ということかしら? だとすれば的外れですわね。わたくしは地下牢のままでも一向に構いませんもの」

塔内の階段を上りながら、アシュリーが歌うように言う。
ジャラジャラと鳴る鎖の音がまるで伴奏のようだ。

刑場に近いこの塔は、塔全体が虜囚を管理するものとなっている。
今いる地下牢の他に、罪人を裁く裁判施設もあるし、それこそ拷問部屋だってある。

そして囚人の食事を作る厨房もあれば、彼らの身を清める施設だって。

「部屋を移すのはあくまでもついでだ」

三階に辿り着き、アシュリーに与える個室とは別の部屋の扉の前で足を止め振り返る。

「ついで?」

後ろをついてきていたアシュリーがきょとんとした顔でランドルフを見上げた。
同時に、中から扉が開く。

「お待ちしておりました、アシュリー様」

その中からメイド服に身を包んだ女性が現れ、深々と頭を下げた。

「ジゼルと申します。精一杯のお世話をさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

顔を上げたジゼルの顔に、不満がちらりと覗いてすぐに消えた。

彼女は王宮勤めの使用人だ。
長年働くメイド長に、口が堅くて浮ついたところのないメイドをという要望を出したら派遣されてきた。

没落貴族の出身で、礼儀作法がしっかりしている。
不満があるからといってわざとミスをして自分の評価を下げるような真似もしない。
外部に秘密を漏らすほど愚かでもない。

他人にも自分にも厳しいメイド長には珍しいほどの高評価だ。

どこに配属されてもしっかりこなせる万能さを持っているらしい。
真面目過ぎるがゆえに少し融通の利かない面もあるらしいが、かなり優秀な人材のようだ。

本人もそれを誇りに思い、ゆくゆくは貴婦人の侍女になることを目指していたという。
それなのに罪人塔で罪人の世話をさせられることになるなんて。
話が違うと言いたいのだろう。

だがジゼルには申し訳ないが、彼女ほどの適任はいない。
今アシュリーの機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。

「湯浴みの準備は整っております。心ゆくまでおくつろぎくださいませ」
「……まあ!」

ジゼルが身体を引いて、部屋の中が見えるようにする。

そこは貴族の罪人用の浴室だった。
監獄に似つかわしくないほど豪華に作られたそれは、王宮の浴室とほとんど遜色はない。
おそらく、カラプタリアのものにも負けないだろう。

「まあまあまあまあ!」

その証拠に、アシュリーは目を輝かせている。

どんなに図太い女でも、さすがに一週間も風呂に入れないのは堪えたのだろう。
ランドルフが何か言うより先に、アシュリーは勝手に浴室の中に入っていった。

「ジゼル、おまえにはすまないが、アレの世話と監視を頼む」
「お任せください、アーキンズ宰相閣下」
「何か妙な動きがあればすぐに報告するように」
「かしこまりました。必ずやご期待に応えてご覧に入れます」

恭しく頭を下げて、ジゼルが浴室の扉を閉める。
不満そうな態度はもうカケラもなかった。

「プロですね」

ロランが感心したように言う。

「これが済んだら王女殿下の侍女に取り立ててもらえるよう推薦状を書くことにしよう」
「賢明なご判断かと」

ジゼルを気に入ったのだろう。
茶化すでもなくロランが言って、閉まった扉に向かって敬礼を送っていた。
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