蟻喜多利奈のありきたりな日常2

あさまる

文字の大きさ
上 下
29 / 31
御亭御蔵高校による侵攻開始

2

しおりを挟む
「そ、そんな人……。」
いない。
自分なぞを誘拐したところで得などないはずだ。

「いないって……確信をもって言える?」

「……。」

「言えないよね、だって……普段利奈ちゃんに擦り寄ってる奴らがそもそも危険な存在なんだもん……。」

「……。」
否定しなければいけない。
しかし、天菜のその言葉を利奈は否定出来なかった。

「ね?だから、私達と戻ろう?」

「……。」
天菜からの申し出に、どう答えるべきか。
利奈には全く分からない。

「利奈ちゃん!」
押しの呼び声。
ゆっくりと彼女の顔へと手を伸ばす天菜。

あと少し。
もう少しで触れることが出来る。

「い、嫌っ!」

パシン!
乾いた音。
それは、天菜が伸ばした手を、利奈が叩いた音であった。

「……え?」
明確な拒絶。
利奈からのそれに、言葉を失ってしまう天菜。

「……。」
二人を見つめる梨居菜。

「お、お願いっ!こんなこと止めて……?」
利奈の言葉。
それを皮切りに、車内の空気が変わった。

「……蟻喜多の者だから……。」

「……え?」

「……私の……愛する子供だから……甘やかしていたけど……。」

「な、何を……。」

利奈の言葉の途中で、遮られた。
バチン!
先ほどの利奈のものよりも大きな音。

利奈は床に伏していた。
それと同時に、彼女の頬に痛みが走る。

「もう良い。これからはもう、こちらのやり方で……本来のやり方で行かせてもらう……。」

「あ、天菜ちゃん……?」

「りい、一度平盆市へ戻ろう。」

「……よろしいのですか?」

「二度は言わない。」

「承知しました。」

窓からの景色は見えない。
しかし、天菜の言い方から、すでに平盆市から離れていることが分かった。
そして、今から戻ると言っている。

それだけ聞けば、利奈の願った通りだ。
しかし、二人のやりとりは、とてもそんな単純なものには思えない。

「……。」
聞きたい。
しかし、聞けない。


数分の沈黙。
揺れと外の音。
それだけしか感じることの出来ない空間。


「……さて……。」
未だ揺れる車内で、天菜は窓を開けた。

彼女が睨む先には、平盆高校。
しかし、まだ距離がある。

「ここは一度、景観を良くしてみてはどうです?」
クスクス……。

「あー……良いね、そうしよう。」
実に良いアイデアだ。
梨居菜の言葉にニヤリと笑みを浮かべる天菜。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

蟻喜多利奈のありきたりな日常

あさまる
ライト文芸
※予約投稿にて最終話まで投稿済です。 ※この作品には女性同士の恋愛描写(GL、百合描写)が含まれます。 苦手な方はご遠慮下さい。 この物語は、自称平凡な女子高生蟻喜多利奈の日常の風景を切り取ったものです。 ※この話はフィクションであり、実在する団体や人物等とは一切関係ありません。 誤字脱字等ありましたら、お手数かと存じますが、近況ボードの『誤字脱字等について』のページに記載して頂けると幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...