蟻喜多利奈のありきたりな日常2

あさまる

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蛍蝉と有鞠一族

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「利奈ちゃん、そんなに楽しみだったの?」

「うん!だって、その為に来たんだからさ!」
ニコニコ。
笑顔で天菜の質問に答える利奈。

「えー?そこは嘘でも私に会いに来たって言ってくれないとー……傷つくなぁー。」
決して本気で言っているわけではない。
ヘラヘラと笑いながら天菜が口にした。

「……え?……あ、あはは、もちろんそれもだよ!もう、意地悪しないでよ。」
利奈は、天菜の返しに今度は誤魔化すように笑って見せた。

「……。」
好ましいやりとりだ。
二人の会話に、口角がやや上がっている梨居菜であった。

「そういえば、私と花府井先輩って名前似てますよね。」

「そうでしょうか?」

「そうですよー、お揃いですよー。」
ニコニコ。
まだ笑顔の利奈。
普段なら特段気にするでもないようなことを口にした。

利奈と梨居菜。
似ていると言えば似ていると言えるだろう。
しかし、やはりこの場で言わなくとも良いようなことだ。
それでも口にしたのは、いつもよりもテンションが高くなったからだろう。

「……。」
天菜は彼女らのやりとりに何も言わない。
しかし、徐々に不機嫌になるのが梨居菜には分かった。

「……ふふふ、そうですね。……しかし、それを言うなら有鞠さんも含めて私達の名前は皆、なで終わる仲間ですよ。」
フォローを入れる梨居菜。

「あー、確かに。なら私達は仲良しってことだね。」

「……利奈ちゃん……!」
天菜の顔から嬉しさが零れ落ちる。
先ほどとは真逆に喜びが見える。

「……さて、そろそろ着きますよ。」

鬱蒼とした森の道を歩いていくと、そこへたどり着いた。
周囲の木々とは比べ物にならないほどの大樹。
そして、その周辺には仄かに光る小さなもの達。

千年に一度、成虫になると伝えられている虫。
蛍蝉だ。
名前の通り、昼間は騒々しく鳴り続け、月夜の照らす時となれば、こうして綺麗に光るこの場所にのみ生息するものだ。
ここにしかいない存在であり、知る者が極めて少ない。

その姿を見れば、どんな願いも叶う。
古くから残る、数少ない村の文献の中に、そんなことが記されていた。

利奈が受け取った葉書。
それには、天菜が送ったものであった。
その内容は、今年はこの蛍蝉が一斉に土から這い出て成虫となり、舞うだろうとあうものだ。

千年に一度しか現れない。
そんなまゆつば物、普通なら皆信じないだろう。
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