蟻喜多利奈のありきたりな日常2

あさまる

文字の大きさ
上 下
6 / 31
蟻喜多利奈と親戚との関係

1

しおりを挟む
「おー……。」
小さな感嘆。

バスに揺られて移動している利奈。
それは、そんな彼女の口から漏れ出た声だ。

窓の外を眺めている。
そこには、山々の連なる雄大な自然が広がっていた。

彼女の乗っているものは、決して貸切ではない。
それなのに彼女の他に、乗客はいない。
それほど、今から彼女の向かう方向へ行く者はいないということだ。


それからまたしばらく行った。
終点。
ようやく降車した利奈。

「……到着ー!」
身体を反らし、呟く。

ポキポキポキ……。
小気味の良い音が身体の節々から鳴る。
長時間、座り心地の悪く、狭い座席に座っていたのだ。
無理もない。

深呼吸。
新鮮な空気が彼女の肺を満たす。

バスが去り、彼女の耳に届くのは、その雄大な自然の中にいる鳥や虫の鳴き声。
そして、風に靡く木々の音のみであった。

「さて……。」
そういって、歩き出す。


そういえば、とふと思うことがあった。
ここへ来るのは何年振りだろう。

高校進学により、一人暮らしをしていた。
母方の祖父母の住む村。
一人で住む前からここにはあまり来ていない。

御亭御蔵村。
それがこの場所の名前だ。

覚えているのは、本当に小さな頃に片手で数えられるほどしかない。
そんな場所に久しぶりに来た理由。
それは、彼女へ届いた一通の葉書が原因であった。

「……さてさて、天菜お姉ちゃんはもう来てるかな?」
ボソリ。
呟く。

久しく来ていなかった。
しかし、それでもなぜか見慣れた景色。
幸いなことに、何もかもが変化していなかったようだ。
だからだろうか。
妙な安心感が、この場所にはあった。

クルクルと回っている。
勢い良く水を動かしている。
年季の入った水車は、今も現役であるようだ。

有鞠天菜。
葉書の送り主で、この村に未だに住む彼女の親戚だ。

親戚という曖昧な関係でしかいえないのは、利奈自身が把握出来ていないからだ。
祖母の姉の娘の娘かなんだと言っていた気がする。
しかし、それも曖昧だ。
だから、年上ということで、彼女のことを親戚の姉と仮定して接していたのだ。

天菜も彼女のことを親戚の妹と思っていたようで、随分と可愛がってくれていた。
ふと、思い出す。
不思議なことに、まるで昨日の出来事かのように鮮明に思い出すことが出来た。

おかしな感覚だ。
しかし、それに対する疑問よりも、嬉しさが勝ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

蟻喜多利奈のありきたりな日常

あさまる
ライト文芸
※予約投稿にて最終話まで投稿済です。 ※この作品には女性同士の恋愛描写(GL、百合描写)が含まれます。 苦手な方はご遠慮下さい。 この物語は、自称平凡な女子高生蟻喜多利奈の日常の風景を切り取ったものです。 ※この話はフィクションであり、実在する団体や人物等とは一切関係ありません。 誤字脱字等ありましたら、お手数かと存じますが、近況ボードの『誤字脱字等について』のページに記載して頂けると幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...