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「お、お邪魔します!か、神良エルと申しますっ!こ、これつまらないものですがっ!よ、良かったらご家族と召し上がって下さいっ!」
彼女もまた、酷く緊張しているのだろう。
声がおかしなことになっている。

かすみの目の前に差し出されたもの。
それは、近所でも有名な洋菓子屋の紙袋であった。
味もさることながら、値段もリッチなもので、滅多に手を出せない代物だ。

そのイメージのせいだろうか。
裕福な家庭、それも洋風を好むような者に好かれている。
そんな気がしていた。

そのせいか紙袋も、高級感溢れるものである。
品のある見た目の彼女にも良く似合う。

「ふふふ、はい、神良さんね。ありがとう。二人で食べようね。さ、上がって上がって。」
かすみが紙袋を受け取る。
今さらの自己紹介に思わず笑ってしまうのであった。

「は、はい!不束者ですが、よろしくお願いします!」
緊張しているのだろう。
声が上擦っている。

「ふふふ、なにその挨拶。」
思わず笑ってしまうかすみ。
自分よりも緊張している彼女を見て、落ち着きを取り戻していたようだった。

「す、すみません……。」
えへへ。
恥ずかしそうに笑う。

こうして、かすみは自身の家へエルを招きいれた。
まずは彼女だ。
彼女の過去から聞いていこう。
そう思ったからだった。

「あ、あの……かすみさん?」

「うん?」

廊下を歩き、かすみの部屋を目指していた二人。
そんな中、すぐにエルが口を開いた。

「つかぬことをお尋ねしますが、先ほど二人で食べようと仰いましたか?」

「え?うん。言ったけど……。」
それがどうしたのだろう?

「っ!?つ、つつつつまりっ!今日お招きしてもらったのは私だけで!その、い、今ご家族はいらっしゃらないということですかっ!?」

「そうだけど……。」
確かにそうだ。
しかし、それがどうしたのだろう?
彼女も、普段から聞きづらいことでもあって、それを聞きたいのだろうか?

「そ、そうですか……いよいよ……いよいよなんですね……。」

「……?」
本当にどうしたのだろう?
様子のおかしいエルを見て、疑問に思うかすみであった。


かすみの部屋へ向かう間。
それはとても短い時間であったが、二人の間には会話はなかった。
しかし険悪なわけではない。
エルがそわそわし、それどころではなかったせいだ。
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