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彼女を抱えている為、両手が塞がっているエル。
その為、日傘を差さずに走っていた。

かすみから見える彼女の顔。
それは、苦痛を我慢しているように見えた。

少しすると、エルの皮膚から煙が立ち込め始めた。
そして、徐々に焼ける匂いがしてきた。
明らかな異常だ。


「エ、エルちゃん?大丈夫?」

「大丈夫……大丈夫です……。」
とても大丈夫ではないだろう。
先ほどよりも悪化して来ている。
頬の一部が爛れてきているのだ。

「ど、どこか……どこか日陰に行こうよ……。」

「大丈夫、大丈夫ですから……。もうちょっと……もう少しですから……。」

「駄目だって……。」

「大丈夫ですから……!」

「駄目!言うこと聞いて!」
しびれを切らし、強く言うかすみ。
これ以上彼女のそんな姿を見たくないのだ。

「分かりました……。」
その勢いに押し負けたエル。


近くの民家。
そこの庭に生えた立派な桜の木。
その木蔭へ入るエル。

道端であることを気にしている余裕はないのか。
塀にもたれてそのまま座り込んでしまった。

「痛い?」

「い、いえ……大丈夫です……。ご心配おかけしました……。」
そう言い、エルが力なく笑顔を見せる。
痛みに耐えているのがすぐに分かってしまう。

「例えばなんだけどさ……。」

「え?えぇ。」

「例えば、わ、私の汗……とか、その……だ、唾液とか……飲んだらそれ治る?」

「え?」

「いや、その……すぐに治る方法があれば……私が協力出来ること、なるべく協力したいし……。」
自分に出来ること。
そんなもの、想像がつく。

体液を彼女へ提供すれば、きっと症状は良くなっていくだろう。
本当は、恥ずかしくてやりたくない。
しかし、状況が状況だ。
背に腹は替えられない。
そう思っての決断だ。

「ほ、本当に良いんですか?」

「仕方ないでしょ、緊急事態なんだから……。」

「すみません、ご迷惑をおかけします……。」

「あっ、ごめん、そんなつもりじゃ……。」

「ふふふ、大丈夫です。こうしてまた、かすみさんとお話が出来るだけで私は幸せですから……。」

「そ、そっか……どうも……。」
ぷいっ。
顔が熱い。
そっぽ向いてしまうかすみ。


ぐいっ。
突然、かすみの腕がエルに引っ張られる。

エルの方を見ていなかった。
そのせいで、反応が遅れてそのまま彼女の方へ倒れ込んでしまった。
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