あなたにかざすてのひらを

あさまる

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あぁ、可愛らしい。
受け入れてくれた。
こんな無防備な姿を見せてくれている。
理性と欲望。
その二つが美咲の中でせめぎ合っている。


パン!
破裂音。
それは、美咲が彼女の目の前で自身の手を叩いたものであった。
それは、美咲の理性が勝利した証拠であった。

「はいっ!しっかりして!」

「んへぇ……?はぇ?」
未だに惚けているかすみ。
呂律が回っていない。

「はぁ……。こんなに純粋だからあの馬鹿どもに搾取され続けてたんだろうな……。」
ため息混じりに言う美咲。

これは正常に戻るまで時間がかかるだろう。
しかし、一人で待っているのもつまらない。

彼女の目があると出来ないこと。
彼女に見られると失望されたり引かれたりすること。
今、それをするチャンスではないだろうか?

そう結論づけてからは、美咲の動きは早かった。
かすみのベッドに飛び込む。

彼女の匂いに包まれ、たちまち幸福感が美咲を支配する。
しかし、それだけでは足りない。
当たり前のように胸元に抱き締めていた枕。
それを顔に押し付けて思いきり深呼吸する。
鼻呼吸でそれをした為、大量のかすみの香りが肺を満たす。

「……ほ、ほへぇ……。」
恍惚の表情を浮かべる美咲。

駄目だ。
そう分かっている。
しかし、抗えない魔力に取りつかれ、ゆっくりと手を自身の身体に這わせる。

吐息に熱を帯始めてきた。
欲求を満たしたい。
彼女はその考えに支配されていた。


「あっ、あれっ!?えっ!?」

「っ!?」
しまった。
かすみのハッとした声。
それが耳に届き、自身の乱れた姿を直す美咲。

「え、あれ?なんでみさちゃん、ベッドに?え?あれ?て言うか私……え?」

良かった。
この困惑具合なら、いくらでも誤魔化せる。
心臓が未だにうるさい。
しかし、安堵する美咲。

一度でも信用を失ってしまうわけにはいかない。
もし、不信に思われてしまえば、彼女らの二の舞だ。

「ご、ごめん、少し眠くて……。」

「そっか、ごめんね……。そうだよね、みさちゃん、売れっ子女優だもんね。それより私もボーッとしててごめんね。」

「その……ごめんね、かすみ。」
罪悪感。
申し訳ない。
しかし、謝罪してしまえばこの醜い行為を認めてしまうことになる。
だから、謝罪することは出来なかった。

「大丈夫だよ。……それで、何の話してたっけ?」
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