あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「かすみさん?」

「な、なに?」

「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん。」

明らかな嘘だ。
エルだけでなく、ゆかりにもそれは分かった。
しかし、その原因が分からない。

通学路を歩く三人。
いつもと同じはずだか、足並みが揃わない。
かすみだけが少しずつ遅くなっていき、二人が立ち止まり、また歩き出すとかすみが遅れる。
その繰り返しであった。

「ゆかりさん?」

「……私じゃないよ。」

「まだ何も言ってませんが……。」

「……どうせ私が目を使ったって思ってるんでしょ?」

目を使った。
他の者が聞けば、意味が分からないものだ。
しかし、エルにはその意味が分かった。

「あら、違うんですか?」

「……私が昨日やったのは、これだけだから。」
携帯電話を見せる。

ボイスメモ。
日付は昨日。
時間は、調度エルが学校にいる時間帯。
つまり、彼女が知る由もない時のものだ。

「なんですか、それ?」

「……ふふ、気になるんだ。」
ニヤニヤ。
悪戯っ子のように笑いながらゆかりが言う。

他の者が見れば、その愛くるしさに心を奪われるだろう。
しかし、対面している者がエルとなれば話は別だ。

腹立たしい。
かすみの目がなければ今すぐにでも殴ってしまいたい。
しかし、興味がないというのも嘘だ。

「まぁ、どうしても言いたいとおっしゃるのでしたら聞いてあげないこともありませんが……。」

「……ふふふ。」

「なんですか……。」

「……別に。」
ニヤニヤ。
その笑みは、依然としてエルを腹立たせる。

不意にしまっていた。
エルは舌打ちしてしまった。

ビクッ。
彼女のそれに反応するかすみ。
「け、喧嘩は……その……止めた方が……。」

「そうですね。」

「……ごめんね、かすみちゃん。」

素直に聞く二人。
しかし、そんな彼女らの反応ですら、今のかすみにとっては恐ろしいものに感じた。

何が原因なのだろう。
二人が考える。

彼女らの物差しでの場合。
元気がない時の対処法は決まっている。

かすみとコミュニケーションをとる。
もしくは、彼女の体液を微量でも良いから摂取する。
そうすれば、大抵のことはどうでも良くなってしまうのだ。
しかし、今回はそのかすみ本人が不調なのだ。

自給自足しているはず。
彼女の中で循環しているのだ。
不調になるなどあり得ない。
想定の範囲外なのだ。
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