あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「でも洗って返すね!拒否権はありません!」
多少強引だが仕方がない。

「ま、待って下さい。なら、洗わなくて大丈夫です。」

「え?いや、流石に申し訳ない……。」

「大丈夫!です!」

その圧に負けてしまったかすみ。
頷くほかなかった。


「そういえばなんだけど……。」

時は進み、二人はリビングに来ていた。
誰もいない大きなそこに置かれた長い机と無数の椅子。
二人が隣り合わせに座っている。

「はい?」

「今日、調子悪そうだったのってなんだったのかな?」

「ふふふ、かすみさんは凄いですね。単刀直入で格好良いです。」

「回りくどいことなく聞けるのが幼馴染の特権だよ。」

「少し、残念なことがあったんです。でも、もう大丈夫です。」

「え?そうなの?」

「はい、そうです。むしろ、それを上回る良いことが起きたので御機嫌です。」
その言葉に嘘偽りはないようだ。

そう、エルにとって素晴らしいものが手に入ったのだ。
明日の昼休みに、かすみから離れることになってしまっても我慢することが出来るだろう。

「そっか、なら良かった。」

「はい、ありがとうございます。」
エルは、本心から感謝した。

「あっ、しまった。」

「はい?」

「ごめん、制服持って帰らないと……。」

「ふふふ、大丈夫ですよ。」

「え?」

「もう、かすみさんのご自宅に制服をお送りするように手配してあります。」

「え?あ、そうなの?ごめんね、何から何まで……。」

彼女の着ていたものは、未だに脱衣場にある。
送る予定なのは、新品のものだ。
もちろん、サイズはかすみに合わせたものだ。


月が頭上に登る時間。
もう真っ暗だ。

「本当にお送りしなくてよろしいんですか?」

「うん、ありがとう。大丈夫だよ。」

帰宅するかすみ。
そんな彼女の後ろ姿を見ているエル。


「一人で帰すわけにはいきませんよね……。」
そう言う彼女の背中には、夜の暗闇よりも黒い翼が生えていた。
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