あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「いやいや、謝らないでよ……え、それお湯じゃん!湯気出てるよ!火傷してるんじゃないの!?大丈夫!?」
大慌てのかすみ。
何の意味もないが、両手をバタバタと動かしている。


時は戻り、エルが自室にかすみを一人にした直後のことだ。
小走りでキッチンへ向かうエルがいた。

「全くもうっ!……この家は無駄に広いから困りますね……。」
愚痴を溢すエル。
彼女のその逸る気持ちとは裏腹に、なかなか目的地であるキッチンに辿り着かないでいた。


ようやく辿り着くことが出来た。
さて、早く飲み物を用意しなければならない。
冷蔵庫を開けるエル。

持ち主である彼女には、中身がどのようになっているか分かっていた。
しかし、もしかしたらということもある。
その為、開けた。
しかし、結果は彼女の思った通りのものであった。

「……か、空っぽ。」
ゆかりのような言い方の一人言。
たどたどしいものをぽつりと呟いた。

ちらり。
乱雑に置かれたコーヒー粉の袋。
そして、コンロに置かれたままのやかん。
これはコーヒーを作れと言う神の導きだろうか。

「いや、我ながら神など、馬鹿らしいですね。」
再度の一人言。
しかし、現状は作るしかないだろう。

袋を掴む。
新品だ。
封を切り、やかんへそのまま入れる。

どれくらい入れればいいのだろう?
何も分からずに入れ始めたエル。

「あっ、しまった!」
これは明らかに入れ過ぎだ。
やかんの中に、粉で山が出来ている。

作り方を知らないエル。
そんな彼女でも分かる。
これは確実に違う。

「と、取り合えずこれはしまっておきましょう……。」
やかんを持ち、自身の視界の外へ追いやろうとするエル。

自分が見ることのない位置に置いておく。
それが彼女の片づけであった。

慌てていたからだろうか。
足がもつれて倒れてしまった。

ゴチン!
やかんが頭上に落ちてきた。

丈夫だからだろう。
痛みはそれほどない。
しかし、頭から粉を株ってしまった。

「だ、大惨事になってしまいました……。」

これはいけない。
コーヒーは危険だ。
こんなもの、かすみに出すわけにはいかない。

「コーヒーがこれほど大変なものだとは……お、お湯……せめてお湯を……。」

相当混乱していたのだろう。
なぜそのような思考に至ったのか分からない。
彼女はかすみに、この暑い時期に熱湯を出そうとしていた。
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