あなたにかざすてのひらを

あさまる

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中庭。
これ以上ないというほど快晴なそこに、彼女らはいた。

赤と黒の日傘を器用に肩にかけて差している二人。
そして、その間に挟まれるかすみ。
いつも通りだ。
しかし、その中で、いつも通りでないことが起きていた。

「はぁ……。」
ため息。
先ほどから何度目か分からないものがエルの口から漏れ出る。

「エルちゃんどうしたの?大丈夫?」
心配そうに言うかすみ。

「い、いえ何でもないです……。」

「……かすみちゃんが聞いてるんだから言ったらどう?」
少し機嫌が悪そうなゆかり。

「い、いえ、本当にかすみさんが気にするようなことではありませんので……。」
やはり言おうとしない。

こんなもの、嘘に決まっている。
何か大きなことが起きたのだろう。
しかし、彼女は話そうとしない。
その理由は分からない。
しかし、これ以上追及すべきではない。
そう思うかすみであった。

「そっか、ごめんね。」

「いえ、こちらこそ、すみません……。」


ちらりとエルの弁当箱を見るかすみ。
普段なら、もう空になっている頃だ。
しかし、半分も減っていない。

特段大食いというわけではない。
どちらかと言えば、少食だ。
それでもやはり、減っている量はあまりにも少なかった。

体調が悪いのだろうか。
それとも、何か気がかりなことがあるのだろうか。
そんな心配が、かすみの中に渦を巻く。


「では、私は戻りますね……。」
エルの声。

「え?あっ、うん。またね。」

かすみのその声を待たずして、エルは立ち上がった。
そして、そのまま歩いて校内へと消えていった。


「エルちゃん、どうしたんだろうね……?」

「……ふふ、ふふふ……うふふふふ……。」
かすみの声が届いていないのだろうか。
不気味に笑うゆかり。
それは、童話に出てくる邪悪な魔女のようなものであった。

「え?ゆ、ゆかりちゃん?」

「……遂に……遂に来た……。この時が……。」
ボソボソ。
呟いている。
その声は、断片的にしかかすみの耳に届かない。

「え?え?」
いつもと違うゆかりの様子にただただ困惑するしか出来ないかすみ。

「……ふふ、私、幸せだよ?」

「え?なんで?」
意味が分からない。
エルの様子がおかしいのに、ゆかりが喜んでいる。
その状況が理解出来ずにいた。

「……さ、お昼ご飯の続きしよ?」

「いや、エルちゃんが……。」
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