あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「さぁさぁさぁ!」
キラキラ。
目を輝かせて詰め寄るエル。

彼女もまた、見た目とは違う表情を見せている。
そこまで盛り上がっている彼女を見てしまっては断りずらい。

「わ、分かったよ……。」
圧に負けてしまったことも否めないかすみ。
ゆかりから水筒を受け取り、再度口をつける。

ごくり。
何かを飲む音。
これは決してかすみから出たものではない。

エルだ。
それは、彼女が唾を飲む音であった。

「で、ではっ!私にっ!私にも一口下さい!」
わくわくが抑えられていない。

「う、うん……。」

「はぁ……幸せです……そう、これです。この時の為に生きてると言っても過言ではありません。」
うっとり。
かすみから水筒を受けとるエル。

「もう、大袈裟だなぁ。」

「いいえ、そんなことはありません!」
ふんす。
鼻息荒くそう反論するエル。

「そ、そっか……。」

「では、早速……。いただきます。」
一口飲む。
ゆかりと同じような表情をし、満足げであった。


そのまま通学路を歩く三人。
ゆかりもまともに歩けるようになった頃には、校門が目の前まで来ていた。

「それではまた、お昼休みに……。」

「……じゃあね、かすみちゃん。」

「うん、またね。」

かすみの背中を見つめる二人。
彼女が見えなくなると、それぞれが教室へ向かった。


「おはよう、ゆかりんこ。今日も可愛いねっ!」

「……おはよう。」

ゆかりの教室。
彼女が室内に入ると、すぐに注目の的となった。

「飴食べる?」

「クッキーあるよ、あげるね。」

「……ふふ、皆ありがとう。でも、大丈夫だよ。朝ご飯ちゃんと食べてきたから……。」

「えー、ゆかりんこに食べてもらおうと思って持ってきたのにー。」
クラスメイトの一人が粘る。

「……大丈夫。私はいらない。」

「で、でもー……。」
まだ粘る。

彼女の前に立つゆかり。
そして、ジッと目を見る。

目と目が合う両者。
ドロリ。
血のような赤黒い瞳が捉える。

「……大丈夫。大丈夫だから……。」

「うん、大丈夫なんだね。」

「……そう。分かったら、自分の席に戻って?」

「分かった。」
そう言うと、彼女は自身の席へと引き返した。

「……早くお昼にならないかな……。」
ぽつり。
そう呟くゆかりであった。


「ごきげんよう、エル様。」

「エル様、ごきげんよう。」
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