あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「い、良いのですか!?是非っ!是非欲しいです!」

「……欲しい。お願い。私にちょうだい?」

当たり前だ。
欲しいに決まっている。

それは、喉から手が出るほど欲しいものだ。
二人ともが欲しがってるのだ。

「わっ!?そ、そっか……。」


全部か、全て失うか。
それとも、半分ずつ分けるか。

今までならば、失うリスクがあっても、その全てを確保しようとした。
二人ともがそう考えていただろう。
しかし、今の彼女らは違った。

「私、一口欲しいです。」

「……私も。」

しまった。
つい興奮してしまった。
後悔する二人。
しかし、ここまではいつも通りだ。

「え、えっと……。」
困るかすみ。

これもいつも通り。
そして、ここからは普段しないことをしてる。

「なら、最初はかすみさんが飲んで下さい。その後で、ゆかりさんに一口あげてもらって良いですか?」

「え?うん……分かった。」
いつもなら、言い争いになる。
しかし、エルが普段しない提案をしたことで戸惑うかすみ。

一口飲む。
そして、ゆかりに渡す。

「……ありがとう。」
仲の良い親戚に誕生日プレゼントをもらった子供のようにはにかむゆかり。
その姿は、かすみでなければ骨抜きにしてしまうようなものであった。

「う、うん。どういたしまして。」
慣れている。
そのはずのかすみですら、顔が熱くなるのを感じた。

「……いただきます。」
両手で持ち、ゆっくりと口をつけるゆかり。

覚束無い幼い動作。
その重さに両手がプルプルと少し震えているように見える。
庇護欲をかきたてられる仕草。
かすみはつい見守ってしまった。

ぴくっ、ぴくっ。
微かに痙攣しているように見える。

「だ、大丈夫?」

「……ふぅん……だいじょぉぶぅ……んへへぇ……。」
その見た目に似合わない妖艶な表情を浮かべているゆかり。

呂律が回っていない。
それに、足元が覚束無い。
そんな彼女は、とても大丈夫には見えない。

「おっと、危ない。」

ふらつき、転けそうになるゆかり。
そんな彼女の肩を抱き、自身に寄せるかすみであった。

「さっ!次!次です!」

「え?次?」

「そうです!もう一度飲んで下さい!出来ればちゃんと飲み口に口を着けて下さい!」

「え?で、でも……。」
もう喉は渇いていない。
それに、妙な頼みに困惑するかすみ。
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