上 下
16 / 151
2

2ー7

しおりを挟む
「吐いた唾は飲み込めませんよ、お婆さん……。」
負けじと睨むエル。

「……上等。小娘に教育してあげる。授業料は格安にしてあげるから……かかってこい。」


静寂。
しかし、すぐにそれは破られた。

「はぁ、馬鹿らしい……。こんなところで……私のかすみに万が一があったらあなたを殺すだけではすみませんよ?」

「……はぁ?かすみは私のだって言ってるのに……。その歳でボケるなんて可哀相……。」

睨み合い。

「このままでは埒があきません。早く終わらせますよ。」
エルが言う。
その言葉に、ゆかりはため息をつきながらも無言で頷いた。

ベッドで寝ているかすみ。
無防備な彼女の隣に寝るエル。
その動作には、一切の躊躇いはなかった。
そして、それに続き、反対側にゆかりが向かう。

かすみの上から覆い被さるように移動する。
彼女の頬を撫でるゆかり。

ごほんっ!
その行動を注意するように、エルはわざとらしく咳払いをした。

にやり。
「……おっと、手が滑った。」
棒読み。

ゆかりの手。
それが、かすみの唇に触れた。

「なっ!?おい、ババア……てめぇ……!」

エルの暴言を遮るゆかり。
今、かすみの唇に触れた指を、そのまま彼女の唇に当てたのだ。

「……うるさい、餓鬼。おやつあげるから黙ってろ。」

ボン!
沸騰したように、エルの真っ白な肌が、真っ赤になった。

舌打ち。
それは、無意識にゆかりの口から出たものであった。

目の前の彼女を黙らせる為とは言え、もったいないことをしてしまったと思ったからだ。

かすみの唇が触れた指。
その神聖なものが、エルの唾液で上書きされ、汚された。
その事実が、彼女にとって不愉快でたまらなかったのだ。
とはいえ、あまり時間がない。
早く済ませなければならないのも事実だ。


冷静さを取り戻したエル。
ゆっくりと寝ているかすみの耳元へ口を近づけた。
「神良エルは、あなたの幼馴染。幼い頃からずっと一緒にいる一つ歳上の友人。」

続けて反対側の耳へ、ゆかりの口が近づく。
「……磯飛ゆかりは後輩だけど仲の良い友人。幼い頃からずっと一緒の幼馴染。」

言い終えると、二人は名残惜しそうにしながらもベッドから出た。


「さ、帰りましょうか。」

「……荷物はまた明日持っていってあげる。」

窓から見える景色。
それは、もう月に照らされるものとなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから

白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。 まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。 でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】殿下、私ではなく妹を選ぶなんて……しかしながら、悲しいことにバットエンドを迎えたようです。

みかみかん
恋愛
アウス殿下に婚約破棄を宣言された。アルマーニ・カレン。 そして、殿下が婚約者として選んだのは妹のアルマーニ・ハルカだった。 婚約破棄をされて、ショックを受けるカレンだったが、それ以上にショックな事実が発覚してしまう。 アウス殿下とハルカが国の掟に背いてしまったのだ。 追記:メインストーリー、只今、完結しました。その後のアフターストーリーも、もしかしたら投稿するかもしれません。その際は、またお会いできましたら光栄です(^^)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...