あなたにかざすてのひらを

あさまる

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「……はい。」
ついゆかりのようなワンテンポ遅れる話し方になってしまったかすみ。
そんな彼女が振り向く。

やはりと言うべきか。
エルも箸で自身の弁当のおかずを摘み、彼女に向けている。

言わなくとも分かるだろう?
そんな笑顔であった。

ここは大人しく従うしかない。
差し出されたのは、こちらもたまご焼きであった。
こちらは甘くない。
塩味が調度良い。


「……かすみちゃん?」

「かすみさん?」

この先、何を言おうとしているか分かる。
しかし、やはりと言うべきか。
彼女にそれを止めることも、対処する手段もない。

「……私の方が美味しいよね?」

「私の方ですよね?」


あぁ……。
良い天気だなぁ。
空を見上げるかすみ。

現実逃避。
それは、疲労が限界に達した彼女のまさかの行動であった。


「……かすみちゃん?」

「あれ?かすみさん?」

「……え?あっ、ごめん。ちょっとボーッとしてた。」
ハッとする。
我に帰ったかすみ。
正確に言えば、現実に強制的に戻されたというのが正しいだろう。

「お疲れですか?」
それに気づいたのは、エルであった。

「うん。」
疲労。
そして、集中力の低下。
そのせいで、つい本音の出てしまったかすみ。

「……私達のせい?」

「うん……あっ、え、えっと……違うよ。ちょっと寝不足みたい……。」
あはは。
苦笑いして言う。

彼女らに振り回されていることが原因である。
しかし、本人らには到底言えないだろう。

「……かすみちゃん。」

「かすみさん。」

彼女の名前を呼ぶ二人。
何か言いたいようだが、その言葉が出ない。

「ごめんね、教室に戻るよ……。二人はお昼食べてて。」
かすみの言葉。
彼女の弁当は、半分も減っていなかった。


中庭。
張り詰める空気ではあるものの、かろうじて会話があった。
しかし、かすみがいなくなったことで、それもなくなってしまった。


ため息をつくゆかり。

「言いたいことがあるのならはっきりおっしゃったらどうです?」

「……それもそうだね。なら言う。時間の無駄。かすみがいないならこんな危険な場所にいたくない。」

「あなたに賛同するのは癪ですが、その通りですね。」

「……でも、その前に……。」

「えぇ。また癪ですが同意します……。私達はこの為に生きていると言っても過言ではありませんからね……。」
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