あなたにかざすてのひらを

あさまる

文字の大きさ
上 下
8 / 151
1

1ー7

しおりを挟む
その妖艶な姿。
同性でありながらつい目を逸らしてしまうかすみ。
ドクンドクン。
心臓が高鳴る。


「……はぁ……この瞬間の為に生きています……。」
未成年とは思えない色気を感じる声のエル。

「……あんたの飲みかけなんて汚いからいらない。でも、かすみちゃんがもう一回飲んでくれるなら飲む。」

ピシッ……。
胃が痛い。
その衝撃的なゆかりの言葉に身体の調子が悪くなるかすみ。

「ふふふ、私最近耳の調子が悪いみたいです。ゆかりさんの言ってる言葉が聞こえなかったです。」

大人っぽい見た目のエル。
その容姿と同じように落ち着いた雰囲気であり、滅多なことでは怒らない。
しかし、今回は様子がおかしかった。

「そ、そっか。き、奇偶だね。わたっ、私も聞こえなかったなー……。と、ところで昨日さ、私……。」
これは嫌な予感がする。
そう思ったかすみ。
すぐさま話題を逸らそうとする。

「……そこの金髪は年齢のせいだね。かすみちゃん、大丈夫?今日学校休む?私、心配だよ。今からでも帰る?」
かすみの声に被せるゆかり。

「あ、あの……二人ともっ!」

「はぁ、口が悪い自分が格好良いと思っている年頃なんでしょうね、可哀相……いえ、可愛いですね。」
珍しくかすみの声が届いていない様子のエル。

「ちょ、二人とも……。」
もう一度、かすみが声を出す。
しかし、二人の耳に届くことはなかった。

こうなってはもうかすみには止められない。
そうなれば、彼女が選ぶ選択肢は一つ。

「もう知らない。私先に行くからね。」
二人を置いていくと宣言。

かすみは、本当にそのまま歩く速度を上げた。
それはもはや、走っているに近いだろう。
そうして、二人を置いていってしまうのであった。

走れば余裕で間に合うだろう。
普通ならそうだ。
そして、そうするだろう。
しかし、二人には、それを選ぶことが出来なかった。

刺すような太陽の日差し。
万が一、日傘から自身の身体の一部が出ようものなら悲鳴を上げるほどの痛みを感じるのだ。

「……ま、待って!ごめん、かすみちゃん!お願い、行かないで!」

「そうです!待って下さい、かすみさん!謝りますから!すみません、もう喧嘩はしませんから!」

二人のその悲痛な声に、立ち止まりそうになるかすみ。
しかし、甘やかしてはいけない。
そう思い、そのまま通学路を進んでいくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

一口分の毒りんご

null
恋愛
人は愛されてこそなんぼだ。 アイドルとして順風満帆な人生を送っていた花月林檎は、自分の容姿、雰囲気、振る舞い…それらから得られる全てを享受しながら生きてきた。 そんな花月にも理解できないモノがあった。 友人もいない、愛想も悪い、本ばかり読んでいて、そして、私にも興味がない人間、時津胡桃。 一人孤独に、自分の中だけで生きている時津とちょっとしたことで共に行動することになった花月は、段々と彼女の隣で居心地の良さを感じるようになっていくのだが…。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

タイツによる絶対領域

御厨カイト
恋愛
お昼前の授業も終わり昼休みになると、いつも私は彼女である澪と一緒に屋上でのんびり話をしながら過ごしていた。今日も私の膝の間に座り、嬉しそうに体を左右に揺らす澪とまったりと雑談をしていたのだが、その話の流れで澪の足を触る事に。しかし、そこで澪は足が弱いことが発覚し……

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...