はりぼてスケバン弐

あさまる

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「……そうか。」
彼女の言葉を額面通りに受け取り、安堵する亥玄。

「今日、楽しかったね。」

「そうだな。」

「……その、本当にごめん。」

「言っただろ、こいつが許すのであればそれで良いと……。」
華子が許すのだ。
つまり、それは黒龍高校の総意と言っても過言ではない。
亥玄はそのように解釈し、彼女へと言う。

「でも……。」

「静かにしてろ、こいつを起こしてしまう。」

「ふふふ、そうだね。」


「……ところで……。」
少しの静寂。
電車のジョイント音のみが耳に届いていた。
そんな空間で、秋姫が再び口を開いた。

「……?」

「鯉崎君は華子のこと、どう思ってるの?」
秋姫なりの単刀直入だ。
真っ直ぐ、そして真剣に彼を見る。

「……は?」
酷く漠然とした質問だ。
答えに詰まる亥玄。

「鯉崎君、喧嘩凄く強いんだよね?瀧澤君から聞いたよ。」

「……そうか、あいつのこと、知ってたんだったな。」

先の襲撃。
その主犯は三人であった。

目の前にいる秋姫。
元黒龍高校の生徒であり、前回の番長である武蔵野双葉の妹である三花。
そして、今話題に上がった白百合高校の生徒であり、亥玄と同じ中学校出身の巳白だ。

「自分が番長になろうって、思わなかったの?」

「思ったさ、でも……。」

「……?」

「それより今は、こいつを守る方が大事だからな。」

「……そっか。」
その時に見せた彼の表情。
その意味が、秋姫には分かってしまった。

「さて、そろそろこいつを起こすぞ。手伝ってくれ。」

「うん。……ほら、華子。そろそろ着くよ。」

「う、うぅーん……。」
目元を擦り、まだ重い瞼と戦う。
無防備で、とてもかの有名な黒龍高校の番長の姿とは思えない。

そんな様子に、つい笑みが溢れてしまう二人であった。
肩を貸し、二人がかりで車内から引っ張り出す。


改札を抜ける。
そんなところで亥玄が口を開く。

「俺は少し用事がある。」

「うん、じゃあね。」

「私が華子のこと送ってくから。」

未だ眠そうで、呑気な華子。
そして、そんな彼女を支えている秋姫。
二人はそう言うと、亥玄を見送るのであった。


一人で歩く亥玄。
今までの彼ではあり得ない一日の過ごし方をした。
しかし、過去に味わったことのない充実感があった。

満足感が油断になる。
しかし、今の彼には無縁の言葉であった。
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