はりぼてスケバン弐

あさまる

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「……奇遇だね。お店以外で会うのは今回が初めてかな?」
華子の耳に届く優しい声。
それは、彼女が辛い時に何度も励ましてくれたものと同じであった。

「あ、あ、えっと……。」
驚き。
そして、困惑。
そのせいで、上手く言葉を紡ぐことが出来ない華子。

安堵と驚愕。
両極端で本来共存しないそれらの感情が、今まさに彼女の中に両立していたのだ。

「……全く情けない……。それでも黒高の頭か?」
もう一つ、彼女へ向けられた声があった。
かつて聞いたことのある心臓に悪いものだ。

「え、ど、どうして……?」
困惑が更に上乗せされる。
華子には、目の前の光景が信じられない。

そこにいた人物達。
それは、華子の愛してやまない喫茶店の店員の青年。
そして、かつて黒龍の番長であった双葉であった。

「どうもこうもない。お前、一人になるなと言われていなかったか?」

「……。」
双葉の言葉に目を逸らしてしまう華子。

なぜ彼がそのことを知っているのか。
そんな疑問が浮かぶ。
しかし、その問いに答えることが出来なかったからだ。

「……まぁまぁ、双葉、そう苛めてやるな。この子も慣れないことで手一杯なんだからさ……。」
あはは。
苦笑いで双葉を宥める。

「……兄貴は甘過ぎる。そんなことだから……。」
反論。
双葉が彼に言い返す。

「……え?」
驚いた。
双葉の呟きに、華子は驚愕した。

聞き間違いでなければ、彼は今兄貴と言った。
あの店員のことを確かにそう呼んだ。

「あれ?言ってなかったっけ?俺、こいつと君と同級生の三花の兄だって。」

「は、初耳です……。」
今日はエイプリルフールであったか?
いや、違う。
四月ですらない。
しかし、それならばなぜこのようなあからさまな嘘を彼言い出したのか分からない。

混乱が混乱を呼ぶ。
華子の頭上に無数のクエスチョンマークが並ぶ。

「……お前、まさか知らずにあの店に出入りしてたのか……?」

「あっ、いや、その……。」

「まぁまぁ、あんまり攻めてやるなよ、可哀想だろ?」
ニコニコ。
先ほどの優しい笑み。
しかし、今までのそれとは見え方が違う。

「……。」

「改めて……俺は武蔵野壱夏だよ。」
喫茶店の店員改め壱夏が華子へと自己紹介をする。

「え、えっと……鼬原華子……です……。」

「そっか、華子ちゃんよろしくね。」

「……は、はい。よろしくです……。」
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