甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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「……。」

「あっ……。」
血の気が引く梨華。

しまった。
言い終えて、ぶちまけてからの後悔。
今までひた隠しにしてきた本心。
それを、本人へぶつけてしまった。

「ご、ごめんね……。」
震える声。
翔子はフラフラと立ち上がると、そこから出ていってしまった。

「ま、待って、翔子ちゃん!待って!お願い、話を聞いて!」
彼女の背中へ向けられた声。
それは確かに翔子に届いたはずだ。
しかし、それでも彼女は立ち止まることはなかった。


こうなってしまっては仕方がない。
玄関の扉が開いた音はしない。
代わりに聞こえたのは、リビングの扉が開いた音だ。

良かった。
家出はない。
それに、部屋に入られてもいないようだ。
取り合えずは安心だ。

あれを見られるわけにはいかない。
決して見られるわけにはいかないのだ。

無数の翔子の写真。
どれも彼女に許可を得たものではないものだ。
そんなものを見せてしまえば、さらに彼女を傷つけてしまう。


「やっちゃった……。」
頭に血が上ぼり、つい迂闊なことをしてしまった。
反省する梨華。

ボフッ。
翔子のベッドに飛び込む。
すると、翔子の匂いに包まれた。

翔子の部屋に一人きり。
そして、普段彼女が寝ているベッドに今は自分がいる。
その事実が、この絶望的状況においても彼女の気持ちの均衡を保つことに役立ってしまった。

仕方がない。
してしまったことは取り消せない。
それなら、せめて楽観的にいよう。

これが夢なら良かった。
翔子に避けられたこと。
そして、美成実が彼女と再会したこと。
そんな状況をを嬉しいことのように話していたこと。
どれもこれも、全部嘘ならば良かった。


「夢だ……きっとこれは悪夢なんだ……。もう、良いや……寝よ……。」
目を瞑る。
ゆっくりと意識が遠くなっていく。

再び目を覚ました頃にはきっと、また翔子と仲睦まじく会話出来るはずだ。
そうに決まっている。
そうでなければおかしいのだ。


「あっ……。」
梨華は目を覚ました。
ぼんやりとする脳でも気づくことが出来た。

自身の身体にかけられているタオルケット。
それは、先ほどまではなかったものだ。
そして、自分が取り出した記憶もない。
きっと彼女がやってくれたのだ。


「……翔子ちゃん……私だけの……。」
愛する者の名前を呟くその顔は、微かに綻んでいた。
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