甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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弓浜美成実。
梨華は、その名前は二度と忘れることはないと思っていた。
事実、翔子の口から彼女の名前が出た瞬間、当時のことを思い出したのだ。

二度と忘れることはない。
しかし、それと同時に二度と聞くことはないと思っていた。
しかし、彼女はその名を耳にした。
あろうことか、翔子からだ。
そして、その表情には嬉しさが含まれていた。

なぜ?
理解出来ない。
理解したくもない。


「だから、嬉しくて……。」
今までのこと。
それを全て打ち明けた翔子。
依然としてその顔には笑みが浮かんでいる。

「……。」

「り、梨華ちゃん?」
彼女の異変にようやく気づいた翔子。
心配そうに覗き込む。

「……で……。」
ぼそり。

「え?」
聞き返す翔子。

「なんで……なんで翔子ちゃんからまたあいつの名前が出てくるの?」
梨華の声が震えている。
それは、決して泣きそうなものではない。
怒りに狂ってしまいそうなものだ。

「……り、梨華ちゃん?」
こんな彼女の様子は見たことがない。
焦り、ただ彼女の名前を呼ぶしか出来ない翔子。

「あいつ……あいつだよ?全部、あいつが悪いんだよ?……分かってるの?忘れちゃったの?」

「り、梨華ちゃん……。」
再度名前を呼ぶ。
やはり、それしか出来ない。

「なんで……?ねぇ、翔子ちゃん……!なんで……!?」

「いや、私は……。」
予想していた反応と違う。
それに戸惑い、やはり上手く言葉が出ない翔子。

「……ごめん、少し頭冷やしてくる……。」
翔子の困惑した表情。
それを見て、冷静さを取り戻したのだろう。
自身の今の状態がおかしいことに、ようやく気づいた梨華。
彼女はそう言った。
そして、廊下へ出て、自室へ戻ってしまったのであった。

「り、梨華ちゃん……その……。」
翔子のそれは、梨華の背中に届くことはなかった。


結局その日、二人が再度会話をすることはなかった。
翌日の朝も同様で、昨日の帰宅時とは打って変わって暗い気持ちで登校する翔子であった。


「お、おはよう、翔子……。その、きょ、今日も綺麗だよ……!」
昨日と同じくこちらは浮かれているようだ。
美成実は、教室に入ると、すでに登校し、自身の席に座っている翔子へ挨拶をした。

「あはは……おはよう……。」
苦笑いで返す翔子。

「……翔子?」
流石に様子がおかしいのに気づいた美成実であった。
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