甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

文字の大きさ
上 下
121 / 154
17

17ー5

しおりを挟む
「良いけど、話下手だよ?」
このままでは押し問答になってしまいそうだ。
それに、彼女に話すのは嫌じゃない。
そう思っての、翔子の話切り出し方であった。

「大丈夫。」

「そう?」

「うん、大丈夫だよ。翔子ちゃんの話なら、私何時間でも……いや、何日でも聞くよ。」
にっこり。
微笑みながら梨華が言う。

「そっか……うん、なら話しちゃおっかなー。」
ふふふ。
翔子が機嫌良く言い始めた。

「わー。」
ぱちぱちぱちぱち……。
彼女の機嫌の良さにつられてテンションが高くなる梨華。
拍手をしてさらに場を盛り上げた。

「……実はね?」

そこから先は、梨華の予想していないものであった。
前言撤回。
長時間はおろか、最初から彼女の言葉をろくに聞くことが出来なかった。

頭が真っ白になる。
直前に聞いたもの。
その名を聞いただけで、思い出しただけで腸が煮え繰り返る気分になってしまう。

弓浜美成実。
彼女が、翔子の通う春部高校に転入してきたとのことであった。

なぜそれが嬉しいのだ?
翔子を傷つけた帳本人なのだぞ?
そんなことを忘れてしまったのか?
目の前で笑顔で話す翔子。

最愛の姉。
翔子が姉で良かった。
なぜ翔子が姉であったのだろう。
血の繋がりを喜んだことも、恨んだこともあった。
そして、同性であることにも悩んだ。

彼女に対して複雑な気持ち。
それを極力抑え込み、これまで生きてきた。
たまに自身でも我慢出来なくなることもあった。
しかし、決して彼女を傷つけることはなかったのだ。

繊細な翔子。
ガラス細工を扱うように接しなければ壊れてしまう。
そう思い、大事にしてきた。
そして、それが正解だと思っていた。
それが今、否定された。

ぷつん。
梨華の中で、何かが切れる。

好き勝手やり、翔子を傷つけた美成実。
今度会ったらどんな手を使ってでも排除してやる。
そう思っていた。
しかし、そんなことをしなくても良い。
そんなものをする必要はなくなったのだ。

好き勝手やっても、彼女は笑顔で話している。
もしかしたら、自身の欲望、それを翔子にぶつけることこそ、彼女の喜びなのではないか?
もし、そうだとしたら、やることは一つだ。

このままではまた盗られてしまう。
決して届かない。
そう思い込んでいたものが、手に入り、平和に過ごせると思っていた。
しかし、甘かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...