甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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翔子のつむじ。
かすかにシャンプーの甘い匂いのするそれ。
背の高い彼女の頭頂部を見たことのある者が、果たして何人いるだろう?

「よしっ!充電満タン!これで今日も一日頑張れるよ!」
バッと立ち上がる翔子。
彼女の言う通り、今の姿元気に満ち溢れていた。

「ふふ、なら良かった。よし、行こっか。」
見上げる形で翔子を見る美成実。
その顔には微細な笑みが浮かんでいた。

こうして二人は公園を出ていくのであった。
その時、二人の距離は少し変わっていた。

前を歩く翔子。
そして、彼女の数メートル後ろに美成実がいた。

ともに登校する二人。
それなのに、彼女らの間には距離がある。
これは、二人が決めた約束であった。
理由は翔子にあった。

美成実といると、彼女はどうしても本来の彼女になってしまう。
言うなれば、甘えん坊になってしまうのだ。

今まで積み上げて来た彼女のイメージ。
それは、言葉数少ない表情の変化の乏しい少女であった。
クールビューティー。
端的に言えば、それだ。

そのイメージを壊してはならない。
そう考えての結果であった。

後ろから見る翔子の姿。
見慣れた美成実であっても見蕩れてしまう。

見下ろすように見る彼女の頭。
横を歩く彼女の顔。
そして、今のように前を歩く背中。
全てが愛おしい。


「おはよう、海部江さん!」

「おはようございます、海部江先輩!」

校舎が見えてきた。
それに伴い、彼女らと同じ中学校に通う者が増えてきた。
皆、翔子の姿を見ると騒ぎ出す。

「うん、おはよう。」
一人一人に挨拶をする翔子。
微笑みを欠かさない。

黄色い歓声。
それらが彼女を包む。
それは、毎日行われているものであり、その渦は今では地域の住人にも波及していた。

「おはよう、翔子ちゃん。今日もべっぴんさんだねー。」

「山田さん、おはよう。山田さんも男前だよ。」
近所の高齢男性に挨拶をされた翔子。
ごくごく普通に挨拶をし返すのであった。


「美成実、おはよう。」

「うん、おはよう。」

翔子と、彼女を包む人混み。
それから少し離れた場所。
通学路を歩く美成実がいた。
彼女も、クラスメイトに挨拶をされていた。

「いやぁ、海部江さんって凄い格好良いね。クラスの男子なんて比べ物にならないくらい。」

「そうかな?」

「うん、美成実が羨ましいよ。幼馴染なんでしょ?良いなぁ……。」
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