甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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あずみに連れられ翔子がやって来た場所。
それは、地下にもテナントがところ狭しと並ぶような商業ビルであった。

平日の午前中。
それなのに、そこは人で溢れている。

「こ、これが都会パワー……。恐ろしい……なんてことだぁ……。」
驚きを隠すことの出来ない翔子。
人の目など気にしていられる余裕は今の彼女にはない。
そのせいか、思考がノンフィルターで口から出てしまう翔子であった。

「ふふ、なにそれ。」
翔子の呟きを聞き、思わず笑ってしまうあずみであった。

「へ?あっ、すみません……。」
聞こえていたのか。
恥ずかしい。
顔が熱い。
俯いてしまう翔子。

それにしても……。
恥ずかしさが減っていき、冷静になった翔子。
足がすくんでしまう。
今からここに行くのか。
心臓が高鳴っているのが分かる翔子であった。

「さっ!行こう!行こう!」
ルンルン。
そんな表現がぴったりなほど楽しげな様子のあずみ。
翔子の背中を両手で押しながら進んで行った。


ざわざわ……。
やはり内部も人で溢れている。
誰も彼も洒落た服を着ている。

その光景を見て、翔子は確信した。
場違いだ。
都会のお洒落を凝縮したような場所。
そんなところに自分が来てしまった。
そのオーラだけで消滅してしまいそうだ。

そうなれば、翔子のやるべきことはただ一つ。
意を決して口を開く。
「あ、あー……この方角は風水的に良くないので私は帰りますねー。」

「何良く分かんないこと言ってるの?ほら、早く、早く!」
翔子の言葉は意図も容易く否定されてしまった。


ズンズン進むあずみ。
そして、そんな彼女に引っ張られていく翔子。

「そう言えば聞くの忘れてたんだけど、どんな系統が良い?」

「け、系統?」

「そう。ボーイッシュなものとか、ガーリッシュとか……。」

「……え?え?」
何を言っているのか全く分からない。
混乱する翔子。

「あー、ごめん。出来る限り分かりやすい言い方を選んだつもりなんだけど……。」
苦笑い。

「な、なんかすみません……。」
翔子は何も悪いことなどしていない。
それでも申し訳ない気持ちになってしまうのであった。

「いや、こっちこそごめんね。……よしっ!なら取り合えず順番に見ていこう!」
あずみが元気一杯に言った。

「は、はいっ!」
負けずに元気に返事をする。
今の翔子には、それしか出来なかった。
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