甘え嬢ずな海部江さん。

あさまる

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「翔子ちゃんは何か聞こえた?」
翔子へ質問が振りかかった。

「……うーん、ごめんね、私もあんまり聞こえなかったなぁ……。」
嘘をついてしまった。

「……そうだよね、ちょっと離れ過ぎてたからなにも聞こえなかったからなぁ……。」

「でも近過ぎてバレるよりは良くない?」

「……まぁ、そうだけど……。でもさ……。」

「で、でもっ!……でも喧嘩にならなくて良かったね。……ね?」
翔子が間に入り、そう言う。

「そうだね。」

「まぁ……。」

この話題は強制的に終了した。


まだ私のことを信頼してくれていない。
真優は確かにそう言った。
誰に信頼されていないと思っているのだろう。

チクリ。
翔子の胸が痛んだ。


「……翔子ちゃん?どうしたの?翔子ちゃん?」

時は進み、翔子は帰宅していた。
リビングで梨華とともに過ごしている。
そんな彼女に、梨華は心配そうに声をかけた。

「……。」
上の空。
梨華の声が届いていないようだ。

「……おーい、翔子ちゃん?」

「……。」

「……そ、そんなに油断してたら……その、だ、抱き締めちゃうよ?……き、キスしちゃ、しちゃうよ?……い、良いの?」
そう言う梨華の声は、上擦っている。
それに、所々緊張で震えていた。

「……え?あっ、なんだっけ?」

「……なんでもないよ、あはは……はぁ……。」
しょんぼりとする梨華。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
そんな気持ちであった。

「……そっかぁ。」

まさか……。
「……まさか、雨枝先輩……?」
ぽつり。

「……え、え?」
真優の呟きに明らかに動揺する翔子。

そんな彼女の姿を見て確信した。
間違いない。
真優が何かした。
しでかしたのだ。

この前釘を打ったはずだ。
それなのに翔子を傷つけた。
許せない。


なぜだ。
なぜ翔子を悲しませる者がこうも次から次へと現れるのだ。
ガリッ、ガリッ……。
ストレスのせいか。
梨華は、自身の指の爪を乱暴に噛み始めた。

「……何されたの?」

「り、梨華ちゃん?どうしたの?恐いよ……。」

「答えて?何されたの?」

「な、なにも……なにもされてない……。」

「本当に?」

「う、うん。」

終始声が震えていた翔子。
嘘をついているわけではない。
何もやましいことなどない。

今まで一度も見たことのない梨華。
そんな彼女の姿に恐怖していたのだ。
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