はりぼてスケバン

あさまる

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真っ直ぐに見ながら歩く。
真剣な表情。
普段見せているものとはまるで異なるものだ。

心司が目指しているのは、とある工場であった。
珍しく緊張している。
一歩一歩、そこへ近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなっているような気がしていた。

廃れた雰囲気。
しかし、アンニュイなだけではない。
そこには確かに生きている空気があった。
そして、彼がいた。

工場内で黙々と作業をしていた。
彼の着ている作業着は、真新しい物であるようだが、汚れが目立つ。
それほど真剣に仕事をしているのだろう。

「双葉……。」
ボソリ。
彼の姿を見て、呟く心司。

かつて、黒龍高校で無敗の番長。
そして、唯一無二の友人。

双葉がそこにいた。
そんな存在であったはずの彼が、周囲に合わせている。

彼のプライドが傷つかないのだろうか。
しかし、心司のそんな考えは、杞憂に終わった。
番長をやっていた頃よりも自然な笑顔を見せている。
そして、活き活きしている。
今の方が楽しそうだ。


彼に黒龍高校の現状を伝える。
それが、ここへ来た目的であった。
そうすれば、少なからず後悔があるはずの彼は戻って来てくれると思っていたのだ。
しかし、この姿を見てしまっては、そうはいかない。

彼に気づかれる前に帰るとしよう。
そう結論付け、踵を返そうとした心司。
しかし、それは遮られた。


「おい、まさかこのまま帰るわけじゃないよな?」

「あ、あははー……まさかー?」
苦笑い。
見つかってしまった。
心司がピタリと動きを止める。

「そうだよな、まさかだよな……。」
フッ……。
静かに微笑む双葉。

「……。」
先手を取られた。
悔しさと、懐かしさ。
そして、それらが混ざり、結果として嬉しさが勝った心司。

隣を歩く二人。
特別に許可を貰い、双葉は休憩時間を取れることとなった。
それも、彼の日頃の勤務態度のお陰だろう。


「……それで?お前がここに来た理由は何だ?」
単刀直入。
質問も、答えもその方が良い。
それが双葉の考え方だ。

「……聞きたいことと、伝えたいことがあってね。どっちからが良い?」

「どっちでも良いさ。結局同じことだろ?」

「あははー……何で何も言わずに黒高を辞めた?」
今までよりも低い声。
怒りの含むものだ。
そんなものが、双葉へと突きつけられた。

「……。」

「答えろ……答えろよ、双葉……。」
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