はりぼてスケバン

あさまる

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「……お前はそれで、本当に後悔しないんだな?」

「う、うん……。」
一見不安げな言い方。
しかし、それでいてはっきりと言う華子。

「分かった。」
そう言うと、彼も追及することはなかった。

「……。」
華子には、分かっていた。

亥玄は、口ではあのように言っている。
しかし、納得していない。

この場をこれ以上引っ掻き回さないよう、一時的に引いただけなのだろう。
だからこそ、彼の好意は無下には出来ない。
これでもう終わりだ。

「もう、そんなに心配なら俺が守るくらい言いなよー。」
心司が言う。

「……は?」
亥玄の低い声。
空気が凍る。


余計なことを言わないでくれ。
心底そう思う華子。
だらだらと、冷や汗が彼女の背中や額を伝う。

「だからー、鯉崎ちゃんが、用心棒として、鼬原ちゃんを守ってやれば良いってことだよー。」

「……。」
無言。
思案しているのか。
それとも、そもそも考えるに値しないと決めつけていたのか。
口を閉ざしている亥玄。

緊張感。
彼が怒り、暴れ出さないか心配な華子。
しかし、更なる追い討ちが来る。

「鼬原ちゃんはどう思うー?」
まさかのキラーパス。
心司が華子を見て言う。

「え!?あ、あぁ……い、良いと思います。」
咄嗟に出てしまった。
ろくに考える間もなく彼女の喉を通して出たものは、そんなものであった。

「……だってさー、どうするー?」

「……。」

「ほらほらー、鼬原ちゃんからもお願いしなきゃー。」
後一押し。
そう思い、華子へ振る。

「え?あ、はい。お、お願い、鯉崎君。」

「……。」

「よしっ、決まり!」
パン!
両手を叩き、心司がニコニコと笑顔で言った。

「お、おい!」

「……だ、駄目?」

「……駄目……というわけではないが……。」

「ふふ、なら決まりだねー。」
二人のやりとりに割って入ったのは心司であった。
きっと、彼の想定通りだったのだろう。
ひどく嬉しそうだ。

「ありがとう、鯉崎君!」

「まだやると決めては……。」

「駄目?」

「駄目というわけでは……。」
ループ。
同じ会話をしている。

「なら決まりだね!よろしくね、私の用心棒。」

「……うるさい、馬鹿。」
そうは言っている。
しかし、華子の言葉に満更でもない様子の亥玄であった。


一段落。
そんなところで、華子には、ふと思い出したことがあった。
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