はりぼてスケバン

あさまる

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「それは……。」

「それは?」

「タイマンする。」

「タイマン。」
良かった。
言わなくて本当に良かった。
とんでもない言葉に心の底から自身の選択に安堵した。


「そんなことを聞くってことは……。」

「知らないっ!知らないからっ!そんな子のことなんて知らないからっ!」

「そ、そうか……。」


再びの無言。
話題が尽きてしまった。
丸雄となら、実のないくだらない話も出来る。
しかし、亥玄とはそんなものが出来る気配もない。

「あっ……。」

「……?どうした?」


立ち止まる。
そんな彼女につられ、亥玄も止まる。
彼女の目の前にいたのは、黒龍高校の生徒でも白辰高校の生徒でもない。
しかし、彼女がよく知る者であった。

「……。」
チラリ。
彼女と視線が合ったが、すぐに逸らして足早にその場を去ろうとする。

何故だ?
彼女は友人であったはずだ。
ショックになる華子。

「ま、待って!」
走り出す華子。

「ちょ、ちょっと待て、鼬原!」
彼女に一歩遅れて走り出す亥玄。
すぐに追いつくことが出来た。


「待って!」

「……っ!」
華子の呼び止めに反応するものの、依然として止まる気配はない。

「待って、秋姫!」
再度の呼び止め。
今度は彼女の名前を併せて呼ぶ。

「な、何で私の名前知って……。……え?え?」
立ち止まり、驚く彼女。
その声は恐怖に染まり、少し震えていた。

秋姫。
橋本秋姫。
それが彼女の名前だ。

「秋姫、なんで逃げるの?」
荒い息。
肩を大きく揺らしながら華子が言う。

「いや、あの……。」
そう言う秋姫は一切目を合わせようとしない。

記憶上の彼女と全く違う。
余所余所しい。
まるで初対面かのようだ。

何故だ?
何か事情があるのか?

「おい、鼬原……こいつ、知り合いか?」
亥玄が割り込むように声を出す。

「う、うん……。」
そのはずだ。
いや、忘れるわけがない。
秋姫は友人だ。
しかし、彼女の反応で少し不安になってしまう。

「鼬原……?え?は、華子なの?」
秋姫が華子をまじまじと見て言う。

「そうだよっ!」

「嘘っ!?華子!?本当に!?」
再び驚く秋姫。

「……そ、そうだよ。」
なぜここまで疑うのだろう?
不安な華子。

「え?嘘!?華子なのっ!?凄い!滅茶苦茶変わったね!」
ズイズイ。
先ほどまでの怯えた様子が嘘だったかのように秋姫が華子に詰め寄る。
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