はりぼてスケバン

あさまる

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「……。」
余計なお世話だ。
ヒクヒクと涌き出る怒りに顔が動く華子であった。

「今度俺のオススメの美容院教えるっすよー。」
ニコニコ。
無邪気な笑みで丸雄が随分なことを言う。

「あ、あー……そうだね……またお願いするね……多分……。」
こんな失礼な奴だ。
きっとそんなことは一生こちらから願い出ることはないだろう。
そうは思ったが、社交辞令で返答する華子であった。

「……これでちょっと制服を着崩せば別人っす!昨日みたいなのは駄目っすよ!」
満足げに華子へ笑顔を向ける丸雄。
その姿はさながら作品を完成させたアーティストのようでもあった。

「う、うん……。」
呆気にとられながらも口を開く華子。

鏡に写る彼女の口も、同じように動いた。
当たり前と言えば当たり前であるが、紛れもない彼女自身であった。

「後はこれで……完成っす!」
ヒョイっと華子の眼鏡を取り上げ丸雄が言う。

「あぁ!?ちょっと!?」
慌てて奪い返そうとする華子。
裸眼になり、あまり良く見えない彼女がパタパタと動かす両腕は丸雄に届かなかった。

「……もしかして眼鏡ないとあんまり見えない感じっすか?」

「……うん。」
力なく肯定する華子。

「へー……。」
そう言いながら、華子の眼鏡を自身の目に近づける。
グニャリと歪む、丸雄の視界。

うへぇ。
気持ち悪くなり、すぐにそれを目元から離す丸雄。

「か、返してよ。それないと歩けないよ……。」
不安げに弱々しく華子が言う。

「でもこの眼鏡、昨日付けてましたっすよね?」

「そ、そうだけど……。」
何を当たり前なことを言っているのだろう。
疑問に思う華子。

「なら、少しでも昨日の印象と変化させるべきだと思うっすよ。」

「そ、そうかもだけど……。」
丸雄の言っていることも理解出来る。
しかし、だからといってこのまま登校してしまっては辿り着くまでに一体どれほどのたんこぶを作るか想像も出来ない。

「大丈夫っすよ!」
そう言うと、丸雄は彼女の腕を引っ張り玄関へ向かう。

「うわっとと!」
大丈夫とはどういうことだろう?
ただただ不安でしかない華子。
しかし、引きづられるままズルズルと進んでいく。


「さ、これに乗って下さいっす!」
じゃじゃーんという効果音が出そうなポーズでそれを見せる丸雄。

「じ、自転車……?」
辛うじて華子に見えたシルエット。
それを呟いた。
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