はりぼてスケバン

あさまる

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どうせ教室に戻っても崩壊した環境では無意味だろう。
それならば、と引き返す華子。

「ど、どうしたんだ?」
作業をしていた者が、戻って来た彼女に困惑する。
何やら少し怯えているようにも見える。
遠巻きに他の者も彼女の様子を伺っている。

「え、えっと……何かお手伝いしようかと思いまして……。」
しどろもどろになりながらも華子が言う。

「……え?」
華子の返答が想定外だったのだろうか。
素頓狂な声を上げる。

「この数を片付けるのって大変そうなので……その……少しでもお手伝いしようかと思いまして……。」
ここまで来て、華子は余計なお世話になってしまっているのではないかと懸念してしまった。
そうであれば、これは所謂ありがた迷惑ということになるかもしれない。

「大丈夫だよ、ありがとう。」

「そ、そうですか……?」

「君、新一年生だろう?それなら早く教室に行った方が良いよ。」
彼女を心配しての言動なのだろうか。
それとも、違う意味を含んだものなのだろうか。
華子へ向けられる言葉。

「は、はい……。すみませんでした。」
これは正論だ。
これ以上ここにいれば、かえって迷惑になるだろう。

「いや、ありがとうね。……ここの生徒達が皆、君みたいに素直な子だったら良いのにな……。」
彼らもこの暴挙に辟易していたようだった。

「あ、あはは……。」
ただただ苦笑いするしか出来ない華子であった。
否定はしない。
あんな暴徒を目の当たりにしては誰だってそう思うだろう。


言われた通り、体育館を出ていく華子。
そんな彼女を見つめる影が二つあった。

「……へー、今年の一年はあんな子もいるんだ。」

「……ほら、早く行くぞ。」

「はいよー。」

彼らの声は、小さくなって行く華子の背中を見て出たものであった。
しかし、それらは彼女の元に届くことはなかった。


荒れに荒れた校内。
学校指定の室内靴を履き、その中を歩く。

パキ、パキ……。
掃除など全くしていないのだろう。
ガラスの破片を踏みながら歩く。


自身がこれから一年間お世話になる場所だ。
深呼吸し、クラス内へ入る。

あぁ、やはりか。
内心ため息をつく。

怒号と罵声。
目の前には無数の生徒達。
彼らの中心には数名の取っ組み合いの喧嘩。
教師もいるが、止めようとはしない。
きっと、出来ないのだろう。

「あ……。」

「あ、あぁ、君か。」
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