モブおじさんの妄想はけして叶うことがない

真城詩

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モブおじさんの妄想はけして叶うことがない

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 男はごくりと喉を鳴らした。それは、とあるジムのインストラクターの筋骨隆々な上裸を目にしたからだった。ボディビルダーとまではいかないが、代わりに筋肉のみでなく身体全体のバランスを意識した均整のとれた体つき。まだ若いが、あと五年もしたらその顔含めて良い男になるだろう、そんな男。男は一目で恋をした。その身体に、自分が抱かれることも想像した。そして彼に告白され、あるいは告白し、恋が成就して身体だけの関係でなくなること、彼が少し照れながら恋人としての最初のキスをせがむこと、二人の新居で彼がエプロンを付けて料理をする姿、二人で食べる料理の味、その後に煙草の火を燻ぶらせ、もしくはワインでも飲みながら”そういう”雰囲気になって同棲最初のセックスをすること、そのセックスの今までと違うところ、同じところ、快楽、己に入ってくるであろう彼の質量、彼のうめき声、己に放たれた白濁の温度、二人で寝転んで幸せだと言い合うこと、いつか彼が歳をとって、その身体に見合う顔つきになって、そうしても一緒にいるところ、ずっと一緒だと言いながら先に彼が亡くなる瞬間、彼の葬儀、彼の遺骨、彼の全て。そう、彼との全てを想像した。想像し尽くして、味わった。それは幸せの数々。彼との一生。

 そう、全ては想像なのだ。ジムの更衣室を出た時、男は彼が、これから一生を己と共にするはずの彼が、同僚であろう男と肩を組んでいるのを見た。彼の耳に、そのどこぞの馬の骨か分からない同僚の男とそろいのピアスが着けられているのを見た。薬指にはまった指輪が、よくよく見ればペアになっていることすら気付いた。同僚に笑いかける彼の顔つきは先程更衣室で見た時より遥かに大人びていて、彼の身体と顔に釣り合いを持たせるのに必要なのは歳月なのではなく同僚ただ一人であることを知った。それは一つの恋の終わりだった。さようなら、名も知らぬ彼よ。夢の中で君と一生を共にしたよ。君は、それは幸せそうだった。ぼくはそんな君を好きになったんだ。さようなら。
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