ENDLESS SUMMER

茉莉 佳

文字の大きさ
14 / 21

29日目

しおりを挟む
          29日目

“ピピピッ ピピピッ ピピピッ…”

 遠くでアラームが鳴り、また新しい一週間がはじまった。
まるで先週と同じ、毎日の繰り返し。
俺は夏の暑い日々を、機械的に消化しているだけだった。
ただ、唯一の生き甲斐は、恋人の仁科ありさと過ごしている時。
その時だけは、俺は生きている喜びを噛みしめられる。
水曜日のテニスクラブの後、ありさの部屋に寄って愛し合い、日曜のデートの約束をする。

「わたし、買い物に行きたいな。式の準備とか新居の準備とか、いろいろあるでしょ。今から少しずつ見ておきたいし」

日曜日は天神で待ち合わせて、その後ショッピング。
イタリアンレストランで昼食をとり、夕方にはありさの部屋に行き、飽きる事なく彼女を求め、彼女からも求められる。

そしてまた新しい一週間が、同じ様に過ぎていき、次の一週間が過ぎていき………

さすがに俺は、なにかがおかしいと感じはじめた。



『わたし、買い物に行きたいな。式の準備とか新居の準備とか、いろいろあるでしょ。今から少しずつ見ておきたいし』

ありさがそう言い出して、もう4週間近く経っている。
なのに一向に、買い物は進んでいない。
日曜日に会っても、いつもいつも天神周辺や博多駅ビルのショップを、ブラブラ回っているだけだ。
そう言えばお昼もいつも、駅ビルのイタリアンだ。

『ほんと、美味しい! さすが稜哉さんの選んだお店ね』

いつもそう言って、ありさははじめてそのレストランに来たかの様に、嬉しそうに食べている。
それだけじゃない。

『今度、稜哉さんの実家に連れていってね』

と言いながら、俺達はいつまで経ってもお互いの実家に、挨拶に行こうとしてないじゃないか。
なにかおかしい。

そもそも、一向に秋の気配がしないってのは、どういうことだ?
少なくとも8月に入って4週間以上たっているはず。
ふつうなら、朝晩は少しは暑さもやわらぐはずなのに、焼ける様に暑い日々が、いまだにずっと続いていて、毎日毎日、受付嬢の篠崎陽菜に、『今日も暑いなぁ~』と声をかけているのだ。
それに、会社の様子だって、なんだかおかしい。

『よう葛西。おまえ来週からの盆休みはどうする?』

出勤の度、同僚の村井はそう言って話しかけてくるが、俺の答えはいつも同じだ。

『まだ考えてないけど、ありさの実家に行かないといけないかも。おまえはどうするんだ?』
『嫁に催促されてぶどう狩りにでも行こうと思うけど、実家に聞いてくれたか?』
『あ、いや。今度聞いとくよ。すまん』
『別にいいって。ヒマな時にでも頼むな』

最初にこの話題を出して、もう4週間。
盆休みなんかとっくの昔に終わっているはずなのに、俺達はいつもこの会話を繰り返している。同じ話しばかりしているのだ。
俺はお盆の間、なにをしてたんだ?
盆休みの記憶が、すっかり消え去っている。
…というより、盆休みが、来てない?

どうして今まで、俺はそれに気づかなかったんだろう?
気づこうとしなかったんだろう?

いくら、毎日なにも考えずに忙しく過ごしているといっても、そのくらい普通に生活していれば、当然わかる事だ。

それになんだ?
この妙な入道雲は。
毎日朝早くから、天にまで届きそうなくらい大きな入道雲が、この街を押し潰すかの様に湧き上がっている。
多少形は変わるものの、入道雲は夕方になっても消えない。

入道雲…

真夏の積乱雲は、地表の湿った空気が熱せられ、上昇気流が発生してできるもので、巨大なものは気温が上がる午後に多く発生するはず。しかも激しい対流で、どんどん形が変わっていくはずじゃないのか?
一日中ずっと変わらない積乱雲って、なにかおかしい。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...