Campus91

茉莉 佳

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20 Lucky Lips

Lucky Lips 13

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 森田美湖と空港で別れて、二年…



 西蘭女子大学を卒業する日が近づき、大学生活の間にたまったノートや本を整理しているとき、わたしはみっこのことを書き綴った、あの頃日記代わりに使っていたキャンパスノートを、本棚の隅で見つけた。
読み返してみると、どれもこれもみんな懐かしく、いい思い出。
辛いできごともあったというのに、それさえも妙に輝いて見える。
日記の文字のなかに、森田美湖のあの笑顔が、自然と甦ってくる。

あのあと、わたしは森田美湖に直接会ってはいない。
だけど彼女の姿は、しばしば見かける。

テレビのCMや、街角のポスター、雑誌の広告。
最近はテレビドラマでも、ちらほらと見かけるようになった。
いろんなところから森田美湖はわたしに、あの素敵な、ニッコリとした微笑みを向けてくれる。



 わたしが大学3年になった春、川島祐二はカメラマンになるために、旅立っていった。
今は東京でひとり暮らしをしながら、星川先生のスタジオで、毎日忙しく働いている。
遠距離恋愛になって、彼とはほとんど会えなくなってしまい、電話や手紙で時々、お互いの気持ちを確かめあうだけ。

『会えない日々が愛を育てる』なんていうけど、あまりにも会えない日々が長いと、愛は枯れていく気がする。
4年生になってからは、就職活動や卒業に向けてのいろんな準備なんかで、わたしも随分忙しくなった。
日々の慌ただしさのなかで、ともすれば忘れてしまいそうになる、川島君への恋心。

「忙しいって文字は、『心がい』って書くんだよ」

って川島君は言ってたけど、『忘れる』って文字も、『心がい』って書くのよね。



 卒業してすぐにでも東京に行き、本格的に小説家を目指そうと思っていたけど、両親の強い反対もあって、わたしは地元の小さな書店への就職を決めた。
そこはいつか、川島君と出会った、運命の場所。
まさかそこで、こうして店員として働く日が来るなんで、あの頃は思ってもみなかった。
それもひとつの巡り合わせ。
そういえば、川島君と再会した夜は、小説講座を受けたばかりで、夢がふくらんでいたっけ。
あれからいくつもの挫折を味わい、日々の生活に追われ、ともすればしぼみそうにもなる、わたしの夢。
だけどいつかは、小説家になって、東京に行くつもりにしている。
それはわたしの、ずっと変わらない夢であり、目標。

 わたしが東京で暮らしていれば、ひょっとしてどこかの街角で、ばったり森田美湖と出会うことがあるかもしれない。
そのときはまた、彼女との間に新しい友情が生まれ、わたしたちは2年前のように、つきあっていけることだろう。
いつか彼女が言ったように、恋愛にも、友情にも、最終ページなんてないって、わたしも信じているから…

わたしは、森田美湖のことを綴ったキャンパスノートの最後のページに、『みっこ』との友情の記念に、彼女のまねをして、口紅で字を書いた。



   『好き』



END

25th NOV. 2011
19th Apr.2016 改稿
21th Aug.2020 改稿
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