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20 Lucky Lips
Lucky Lips 11
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「みっこ?」
声を上げてを呼んでみる。
だけど、返事はない。
わたしたちはあたりを見回し、はじめに彼女が座っていた、コンコースのベンチまで戻ってみた。
みっこは、そこにもいなかった。
「川島君。みっこは何時の飛行機で発つの?」
わたしは川島君に訊いてみた。しかし彼は、かぶりを振る。
「ぼくもそこまでは聞いてなかったよ。だいたい今日帰るってことさえ、知らなかった」
「まさか、みっこ…」
わたしはあわてて、ロビーの天井から下がっている大きな電光掲示板で、東京行きの飛行機を探した。
12時10分。全日空252便。
搭乗時間を考えたら、この便しかない。
わたしたちは全日空のカウンターに行き、252便の乗客名簿を調べてもらう。
ミコ モリタ
小さな五つの文字を、名簿のなかに見つけた。
「12時10分! みっこの乗る飛行機よ!」
「えっ?! もう12時5分だぞ。搭乗は終わってるよ!」
「早く送迎デッキに行きましょ!」
わたしたちは急いで送迎用のゲートをくぐり、空港の滑走路が見渡せるデッキに出た。
“ゴウゥゥゥゥ…”
全日空252便トライスターは、ちょうど滑走を始めて、その重い機体を、中空へ持ち上げようとしている瞬間だった。
機首が次第に角度をつけ、車輪が滑走路を蹴るようにして、テイク・オフ。
252便は白いジェットの煙を長く吐き出しながら、冬の澄んだ青空のなかへ吸い込まれ、小さくなっていく。
わたしと川島君は、黙ったまま、それを見送った。
「さよならの言葉もない… お別れね」
飛行機が青空の向こうに消えてしまって、わたしはポツリと言った。
「そうだな」
「みっこったら、なにも言ってくれないんだもん」
「…きっと。言えなかったんじゃないか?」
「…」
最後に見た、空港のロビーでニッコリ微笑んで、小さく手を振る森田美湖の姿を、わたしは思い出していた。
冴えたロゼカラーの口紅が、印象的だった。
それは、彼女の好きな『PERKY JEAN』の口紅の色。
あの素敵な微笑みは、自分の傷ついた心を隠す、唯一の武器だったのかもしれない。
「やっぱり… いちばん辛かったのは、みっこだったのかもしれない」
252便の白い機体が消えた先を見上げながら、わたしはつぶやいた。
フェンスの手すりに肘をついて、川島君は空を見上げたまま言う。
「彼女、強いよな」
「ん… みっこはいつだって、自分の力で、道を切り拓いてきたと思う」
「彼女のニッコリ微笑む顔、覚えてる?」
「忘れられないわ」
「あの笑顔を見るたびに、感じてたよ。みっこの自分の生き方に対する、自信があふれてるって。
そんな素敵な笑顔だった。
ぼくはそんな彼女が好きだったよ。 …友だちとして」
「そう… みっこの笑顔は、いつだってわたしを元気づけてくれたの。
それは、あの微笑みが、どんな辛い想いでも、乗り越えてきた証だと思ってたから。
だからわたし、今度のことでみっこの微笑みが、もっと素敵になるって、信じてる」
「…ああ。そうだな」
川島君はうなずいた。
わたしはこの一年半の間、みっこがわたしに見せてくれた、様々な笑顔を目に浮かべてた。
さよなら、みっこ…
またいつか、会える日もくるわよね。
つづく
声を上げてを呼んでみる。
だけど、返事はない。
わたしたちはあたりを見回し、はじめに彼女が座っていた、コンコースのベンチまで戻ってみた。
みっこは、そこにもいなかった。
「川島君。みっこは何時の飛行機で発つの?」
わたしは川島君に訊いてみた。しかし彼は、かぶりを振る。
「ぼくもそこまでは聞いてなかったよ。だいたい今日帰るってことさえ、知らなかった」
「まさか、みっこ…」
わたしはあわてて、ロビーの天井から下がっている大きな電光掲示板で、東京行きの飛行機を探した。
12時10分。全日空252便。
搭乗時間を考えたら、この便しかない。
わたしたちは全日空のカウンターに行き、252便の乗客名簿を調べてもらう。
ミコ モリタ
小さな五つの文字を、名簿のなかに見つけた。
「12時10分! みっこの乗る飛行機よ!」
「えっ?! もう12時5分だぞ。搭乗は終わってるよ!」
「早く送迎デッキに行きましょ!」
わたしたちは急いで送迎用のゲートをくぐり、空港の滑走路が見渡せるデッキに出た。
“ゴウゥゥゥゥ…”
全日空252便トライスターは、ちょうど滑走を始めて、その重い機体を、中空へ持ち上げようとしている瞬間だった。
機首が次第に角度をつけ、車輪が滑走路を蹴るようにして、テイク・オフ。
252便は白いジェットの煙を長く吐き出しながら、冬の澄んだ青空のなかへ吸い込まれ、小さくなっていく。
わたしと川島君は、黙ったまま、それを見送った。
「さよならの言葉もない… お別れね」
飛行機が青空の向こうに消えてしまって、わたしはポツリと言った。
「そうだな」
「みっこったら、なにも言ってくれないんだもん」
「…きっと。言えなかったんじゃないか?」
「…」
最後に見た、空港のロビーでニッコリ微笑んで、小さく手を振る森田美湖の姿を、わたしは思い出していた。
冴えたロゼカラーの口紅が、印象的だった。
それは、彼女の好きな『PERKY JEAN』の口紅の色。
あの素敵な微笑みは、自分の傷ついた心を隠す、唯一の武器だったのかもしれない。
「やっぱり… いちばん辛かったのは、みっこだったのかもしれない」
252便の白い機体が消えた先を見上げながら、わたしはつぶやいた。
フェンスの手すりに肘をついて、川島君は空を見上げたまま言う。
「彼女、強いよな」
「ん… みっこはいつだって、自分の力で、道を切り拓いてきたと思う」
「彼女のニッコリ微笑む顔、覚えてる?」
「忘れられないわ」
「あの笑顔を見るたびに、感じてたよ。みっこの自分の生き方に対する、自信があふれてるって。
そんな素敵な笑顔だった。
ぼくはそんな彼女が好きだったよ。 …友だちとして」
「そう… みっこの笑顔は、いつだってわたしを元気づけてくれたの。
それは、あの微笑みが、どんな辛い想いでも、乗り越えてきた証だと思ってたから。
だからわたし、今度のことでみっこの微笑みが、もっと素敵になるって、信じてる」
「…ああ。そうだな」
川島君はうなずいた。
わたしはこの一年半の間、みっこがわたしに見せてくれた、様々な笑顔を目に浮かべてた。
さよなら、みっこ…
またいつか、会える日もくるわよね。
つづく
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