Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
289 / 300
20 Lucky Lips

Lucky Lips 6

しおりを挟む
「…東京で、星川センセのところで、仕事をしたとき、川島君と会ったの。さつきのいないところで、はじめて」
「え?」
「あたしから誘ったの。仕事のあとで、『お茶しない?』って」
「…」
「それから、ときどき電話するようになって、いっしょに食事に行ったり、写真のモデルをしたり…
スタジオでの仕事で得た技術やインスピレーションを、実際に試してみたくて、川島君はモデルになってくれる人を探してたわ。それで、あたしが引き受けたの。仕事が終わったあとのスタジオで、モデルをしたり、野外ロケのやったり。
そうやって何度かモデルをやったけど、前にも言ったように、川島君はいつでも、どんな撮影でも、『紳士』だったわ」
『どんな撮影』というのに、みっこは含みをもたせた。
「…そんなにモデル、やってたの?」
「ええ」
「みっこはプロモデルなのに、川島君にはタダで撮らせてたの?」
「『モデルのお礼をさせてくれ』って、川島君は言ったけど、あくまでモデルは、あたしの好意でやったことだったから、お金なんかもらいたくなかった。
だからお礼の代わりに、『ディズニーランドに連れてって』って言ったの」
「…川島君とみっこがディズニーランドに行ったのは、わたし、気がついてた」
「えっ? どうして?」
「みっこ、わたしの誕生日プレゼントに、ミッキーマウスの時計くれたじゃない。川島君はミッキーの万年筆をくれたから、『もしかしていっしょにディズニーランドに行ったんじゃないか?』って、ずっと思ってたの」
わたしの言葉に、みっこは観念したように瞳を閉じた。
「…そう。
やっぱりあたしの『モデル料』は、高くついたのね。なんだか皮肉」
「皮肉?」
「こんな、取り返しのつかないことになってしまうなんて。
特に相談してたわけじゃないのよ。
だけどあの時、お互いそれぞれ、さつきへのバースディプレゼントを買ってたのね。あたしも川島君も、いつでもさつきのこと考えてたから」
「それで、ふたりでディズニーランドに行ったことがバレるなんて、確かに皮肉かも」
「…ん」
「みっこも川島君も、ふたりが東京で会ってるなんてこと、ひとことも言ってくれなかった」
「ごめんなさい」
「どうして黙ってたの?」
「言っておかなきゃとは思ってたんだけど… どうしても切り出せなくて。 
あたしが『川島君のことが好き』だって、もし、さつきに知られたら、友情にヒビが入っちゃうかもしれないと思うと、怖くて。
だけど、さつきの言うように、そんな嘘で塗り固めた友情なんて、にせものよね」
「…」
「だけど、あたしが川島君と会っていたのは、あくまで『モデルとして、友だちとして』だったのよ」
「…」
「本当よ。それだけは信じてちょうだい。あたしはあなたを差し置いてまで、川島君とつきあいたいなんて思ってなかったし、あなたたちを辛い目にあわせるつもりなんて、本当に全然なかったの」
「…」
「あたし、男女間の友情って、あるんだと思う。
川島君とは話をしていて楽しかったし、いろいろ共感もできた。
写真のことでも相性はよかったし、彼の撮る写真も好きだった。
川島君のことは友だちとして好きだったけど、でも、独占欲なんてなかった。
恋って、相手を独り占めしたいって感情でしょ?
だから、それがないってことは、『川島君に恋してる』ってのはあたしのただの錯覚で、川島君への気持ちはきっと、『親友』としての感情だったのよ。今振り返ると、そうとしか思えないの」
「そんな…」

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

空手バックパッカー・リターンズ

冨井春義
ライト文芸
前作「空手バックパッカー放浪記」から数年後。かつては痩せ犬のような若者だった私は、メタボな中年オヤジになっていた。もともとヘッポコだった空手の腕をさらに錆びつかせた私は、ひょんなことから私に弟子入りすることになった若者タカとともに、再び空手バックパッカーの旅に出ることに。。短気で向こう見ずで正義感の強い弟子タカの暴走に手を焼きつつ、またも次々現れる強敵相手にハッタリと機転と卑怯を武器に戦います。スリランカ、タイを舞台に空手バックパッカー師弟の珍道中が始まる!いちおう前作の続編なのですが、こっちから読んでいただいても問題ありません。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

星と花

佐々森りろ
ライト文芸
【第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞】  読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校四年生の時、親友の千冬が突然転校してしまう事を知ったなずな。  卒業式であげようと思っていた手作りのオルゴールを今すぐ渡したいと、雑貨屋「星と花」の店主である青に頼むが、まだ完成していないと断られる。そして、大人になった十年後に、またここで会おうと千冬と約束する。  十年後、両親の円満離婚に納得のいかないなずなは家を飛び出し、青と姉の住む雑貨屋「星と花」にバイトをしながら居候していた。  ある日、挙動不審な男が店にやってきて、なずなは大事なオルゴールを売ってしまう。気が付いた時にはすでに遅く落ち込んでいた。そんな中、突然幼馴染の春一が一緒に住むことになり、幸先の不安を感じて落ち込むけれど、春一にも「星と花」へ来た理由があって──  十年越しに繋がっていく友情と恋。それぞれ事情を抱えた四人の短い夏の物語。

ネトゲのヒーローは魔王を許さない

KAIN
ライト文芸
曲がった事が大嫌いな高校生、月之木陽(つきのきよう)。  ある日、テストの時間にカンニングしていた男子生徒を殴り飛ばし、謹慎処分となってしまう。自分はただ、『悪人』を罰しただけなのにと、消沈しながら帰宅した陽は、憂さ晴らしにオンラインゲーム『エクシオン』にアクセスする。だがそこでも、陽のフレンドをPKする者達がいた。  そいつらと戦い、勝利する陽。そして陽は、そいつらにPKを指示した、『魔王』というプレイヤーの存在を知る。  『悪』を罰する為、陽はそいつらと戦う事を決意する。

タイムパラライドッグスエッジ~きみを死なせない6秒間~

藤原いつか
ライト文芸
 岸田篤人(きしだあつと)は2年前の出来事をきっかけに、6秒間だけ時間を止める力を持っていた。  使い道のないその力を持て余したまま入学した高校で、未来を視る力を持つ藤島逸可(ふじしまいつか)、過去を視る力を持つ入沢砂月(いりさわさつき)と出会う。  過去の真実を知りたいと願っていた篤人はふたりに近づいていく中で、自分達3人に未来が無いことを知る。  そしてそれぞれの力が互いに干渉し合ったとき、思いもよらないことが起こった。  そんな中、砂月が連続殺人事件に巻き込まれ――  * * *  6秒間だけ過去や未来にタイムリープすることが可能になった篤人が、過去へ、未来へ跳ぶ。  今度こそ大事な人を失わない為に。

可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス

竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか? 周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか? 世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。 USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。 可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。 何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。 大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。 ※以前、他サイトで掲載していたものです。 ※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。 ※表紙画:フリーイラストの加工です。

処理中です...