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20 Lucky Lips
Lucky Lips 6
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「…東京で、星川センセのところで、仕事をしたとき、川島君と会ったの。さつきのいないところで、はじめて」
「え?」
「あたしから誘ったの。仕事のあとで、『お茶しない?』って」
「…」
「それから、ときどき電話するようになって、いっしょに食事に行ったり、写真のモデルをしたり…
スタジオでの仕事で得た技術やインスピレーションを、実際に試してみたくて、川島君はモデルになってくれる人を探してたわ。それで、あたしが引き受けたの。仕事が終わったあとのスタジオで、モデルをしたり、野外ロケのやったり。
そうやって何度かモデルをやったけど、前にも言ったように、川島君はいつでも、どんな撮影でも、『紳士』だったわ」
『どんな撮影』というのに、みっこは含みをもたせた。
「…そんなにモデル、やってたの?」
「ええ」
「みっこはプロモデルなのに、川島君にはタダで撮らせてたの?」
「『モデルのお礼をさせてくれ』って、川島君は言ったけど、あくまでモデルは、あたしの好意でやったことだったから、お金なんかもらいたくなかった。
だからお礼の代わりに、『ディズニーランドに連れてって』って言ったの」
「…川島君とみっこがディズニーランドに行ったのは、わたし、気がついてた」
「えっ? どうして?」
「みっこ、わたしの誕生日プレゼントに、ミッキーマウスの時計くれたじゃない。川島君はミッキーの万年筆をくれたから、『もしかしていっしょにディズニーランドに行ったんじゃないか?』って、ずっと思ってたの」
わたしの言葉に、みっこは観念したように瞳を閉じた。
「…そう。
やっぱりあたしの『モデル料』は、高くついたのね。なんだか皮肉」
「皮肉?」
「こんな、取り返しのつかないことになってしまうなんて。
特に相談してたわけじゃないのよ。
だけどあの時、お互いそれぞれ、さつきへのバースディプレゼントを買ってたのね。あたしも川島君も、いつでもさつきのこと考えてたから」
「それで、ふたりでディズニーランドに行ったことがバレるなんて、確かに皮肉かも」
「…ん」
「みっこも川島君も、ふたりが東京で会ってるなんてこと、ひとことも言ってくれなかった」
「ごめんなさい」
「どうして黙ってたの?」
「言っておかなきゃとは思ってたんだけど… どうしても切り出せなくて。
あたしが『川島君のことが好き』だって、もし、さつきに知られたら、友情にヒビが入っちゃうかもしれないと思うと、怖くて。
だけど、さつきの言うように、そんな嘘で塗り固めた友情なんて、にせものよね」
「…」
「だけど、あたしが川島君と会っていたのは、あくまで『モデルとして、友だちとして』だったのよ」
「…」
「本当よ。それだけは信じてちょうだい。あたしはあなたを差し置いてまで、川島君とつきあいたいなんて思ってなかったし、あなたたちを辛い目にあわせるつもりなんて、本当に全然なかったの」
「…」
「あたし、男女間の友情って、あるんだと思う。
川島君とは話をしていて楽しかったし、いろいろ共感もできた。
写真のことでも相性はよかったし、彼の撮る写真も好きだった。
川島君のことは友だちとして好きだったけど、でも、独占欲なんてなかった。
恋って、相手を独り占めしたいって感情でしょ?
だから、それがないってことは、『川島君に恋してる』ってのはあたしのただの錯覚で、川島君への気持ちはきっと、『親友』としての感情だったのよ。今振り返ると、そうとしか思えないの」
「そんな…」
つづく
「え?」
「あたしから誘ったの。仕事のあとで、『お茶しない?』って」
「…」
「それから、ときどき電話するようになって、いっしょに食事に行ったり、写真のモデルをしたり…
スタジオでの仕事で得た技術やインスピレーションを、実際に試してみたくて、川島君はモデルになってくれる人を探してたわ。それで、あたしが引き受けたの。仕事が終わったあとのスタジオで、モデルをしたり、野外ロケのやったり。
そうやって何度かモデルをやったけど、前にも言ったように、川島君はいつでも、どんな撮影でも、『紳士』だったわ」
『どんな撮影』というのに、みっこは含みをもたせた。
「…そんなにモデル、やってたの?」
「ええ」
「みっこはプロモデルなのに、川島君にはタダで撮らせてたの?」
「『モデルのお礼をさせてくれ』って、川島君は言ったけど、あくまでモデルは、あたしの好意でやったことだったから、お金なんかもらいたくなかった。
だからお礼の代わりに、『ディズニーランドに連れてって』って言ったの」
「…川島君とみっこがディズニーランドに行ったのは、わたし、気がついてた」
「えっ? どうして?」
「みっこ、わたしの誕生日プレゼントに、ミッキーマウスの時計くれたじゃない。川島君はミッキーの万年筆をくれたから、『もしかしていっしょにディズニーランドに行ったんじゃないか?』って、ずっと思ってたの」
わたしの言葉に、みっこは観念したように瞳を閉じた。
「…そう。
やっぱりあたしの『モデル料』は、高くついたのね。なんだか皮肉」
「皮肉?」
「こんな、取り返しのつかないことになってしまうなんて。
特に相談してたわけじゃないのよ。
だけどあの時、お互いそれぞれ、さつきへのバースディプレゼントを買ってたのね。あたしも川島君も、いつでもさつきのこと考えてたから」
「それで、ふたりでディズニーランドに行ったことがバレるなんて、確かに皮肉かも」
「…ん」
「みっこも川島君も、ふたりが東京で会ってるなんてこと、ひとことも言ってくれなかった」
「ごめんなさい」
「どうして黙ってたの?」
「言っておかなきゃとは思ってたんだけど… どうしても切り出せなくて。
あたしが『川島君のことが好き』だって、もし、さつきに知られたら、友情にヒビが入っちゃうかもしれないと思うと、怖くて。
だけど、さつきの言うように、そんな嘘で塗り固めた友情なんて、にせものよね」
「…」
「だけど、あたしが川島君と会っていたのは、あくまで『モデルとして、友だちとして』だったのよ」
「…」
「本当よ。それだけは信じてちょうだい。あたしはあなたを差し置いてまで、川島君とつきあいたいなんて思ってなかったし、あなたたちを辛い目にあわせるつもりなんて、本当に全然なかったの」
「…」
「あたし、男女間の友情って、あるんだと思う。
川島君とは話をしていて楽しかったし、いろいろ共感もできた。
写真のことでも相性はよかったし、彼の撮る写真も好きだった。
川島君のことは友だちとして好きだったけど、でも、独占欲なんてなかった。
恋って、相手を独り占めしたいって感情でしょ?
だから、それがないってことは、『川島君に恋してる』ってのはあたしのただの錯覚で、川島君への気持ちはきっと、『親友』としての感情だったのよ。今振り返ると、そうとしか思えないの」
「そんな…」
つづく
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