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20 Lucky Lips
Lucky Lips 2
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みぞれ雨の憂鬱な天気から一転して、翌日の日曜日は、抜けるような青空の朝だった。
昨日から何度、みっこのくれた短い手紙を読み返しただろう?
彼女がなにを考え、なにをするつもりで、この手紙をくれたのか。
ベッドのなかや朝食を食べながら、始終その手紙に込められた意味ばかりに想いを巡らし、みっこの待つという空港に行こうか行くまいか散々悩んだ末、ようやく意を決して、わたしはよそいきのワンピースに手をとおした。
彼女がなにを考えているにしても、これはみっこと話ができる最後のチャンスかもしれない。
勇気を出して、わたしも少しでも前に進もう。
きっと、悪いことなんておきないはず。
そんなことを考えながら外出の支度をして、窓の外の青空に目をやり、わたしはふとつぶやいた。
「そういえば、去年の冬にはじめてみっこの部屋に行ったときも、こんないい天気だったな」
知らず知らずのうちにわたしは、目にした景色や記憶なんかを、みっこや川島君と絡めて憶い出している。
そんな思考回路が辛い。
それは、自分の失恋の傷がまだ癒えていないことを、知る瞬間。
私鉄で中央のターミナルに出て、そこから空港バスに乗り換えて15分。
郊外ののどかな場所に、福岡空港はあった。
この空港に来たのは、みっこと川島君とモルディブに行ったとき以来。
そういえばあのときみっこは、『好きな人が、できちゃったみたい』って、告白してきたんだ。
それが川島君のことだとも知らず、わたしはみっこの恋愛を応援していた。
それはわたしたちの、大きなターニングポイントだった。
あのとき、こんな結末を迎えるなんて、だれが想像しただろう?
ううん。
もしかしてみっこは、こうなることがわかっていたのかもしれない。
だからこそ、その想いをひた隠しにして、わたしたちに見せないようにしていたんだろうな。
バスを降り、空港のコンコースに入って、わたしはあたりを見渡す。
森田美湖は隅のベンチに、ちょこんと座っていた。
そのとなりには、大きなショルダーバッグ。
裾の広がった白いワンピースに、ケープのロングコートを着込み、頭にはあったかそうな毛の帽子をかぶって、明らかに旅行者の格好。
わたしを見つけた彼女は、パッと花が咲くように微笑み、ベンチから立ち上がって、わずかに会釈して言った。
「ありがとうさつき。来てくれて」
「別に… みっこが『最後のわがまま』なんて言うから…」
わたし、素直じゃない。
彼女の微笑む顔を見れて、嬉しかったのに。
そんな気持ちとはうらはらに、わたしは渋い顔を作っている。
そうしながら、わたしはニッコリと微笑みを浮かべたみっこの綺麗な顔を、こっそりと見つめた。
頬の傷は、もうわからなくなっている。
いつもと変わらない…
ううん。
それ以上にチャーミングな笑顔。
どうして?
あれだけのことがあったというのに、さらに輝きを増したような素敵な笑顔で、どうして森田美湖は微笑むことができるんだろう?
わたしは爽やかに微笑む、みっこの口元を見た。
冴えたロゼカラーの口紅が、とっても印象的。
あ…
そう思ったのは二回目。
最初はもう、一年以上も前。
はじめてふたりで海に行ったときだった。
なんでそんなこと、憶い出しちゃったんだろう?
もう、すっかり忘れていたことなのに。
今の彼女の微笑みが、わたしたちが出会った頃のように、作られたようなよそいきの美しさだから?
つづく
昨日から何度、みっこのくれた短い手紙を読み返しただろう?
彼女がなにを考え、なにをするつもりで、この手紙をくれたのか。
ベッドのなかや朝食を食べながら、始終その手紙に込められた意味ばかりに想いを巡らし、みっこの待つという空港に行こうか行くまいか散々悩んだ末、ようやく意を決して、わたしはよそいきのワンピースに手をとおした。
彼女がなにを考えているにしても、これはみっこと話ができる最後のチャンスかもしれない。
勇気を出して、わたしも少しでも前に進もう。
きっと、悪いことなんておきないはず。
そんなことを考えながら外出の支度をして、窓の外の青空に目をやり、わたしはふとつぶやいた。
「そういえば、去年の冬にはじめてみっこの部屋に行ったときも、こんないい天気だったな」
知らず知らずのうちにわたしは、目にした景色や記憶なんかを、みっこや川島君と絡めて憶い出している。
そんな思考回路が辛い。
それは、自分の失恋の傷がまだ癒えていないことを、知る瞬間。
私鉄で中央のターミナルに出て、そこから空港バスに乗り換えて15分。
郊外ののどかな場所に、福岡空港はあった。
この空港に来たのは、みっこと川島君とモルディブに行ったとき以来。
そういえばあのときみっこは、『好きな人が、できちゃったみたい』って、告白してきたんだ。
それが川島君のことだとも知らず、わたしはみっこの恋愛を応援していた。
それはわたしたちの、大きなターニングポイントだった。
あのとき、こんな結末を迎えるなんて、だれが想像しただろう?
ううん。
もしかしてみっこは、こうなることがわかっていたのかもしれない。
だからこそ、その想いをひた隠しにして、わたしたちに見せないようにしていたんだろうな。
バスを降り、空港のコンコースに入って、わたしはあたりを見渡す。
森田美湖は隅のベンチに、ちょこんと座っていた。
そのとなりには、大きなショルダーバッグ。
裾の広がった白いワンピースに、ケープのロングコートを着込み、頭にはあったかそうな毛の帽子をかぶって、明らかに旅行者の格好。
わたしを見つけた彼女は、パッと花が咲くように微笑み、ベンチから立ち上がって、わずかに会釈して言った。
「ありがとうさつき。来てくれて」
「別に… みっこが『最後のわがまま』なんて言うから…」
わたし、素直じゃない。
彼女の微笑む顔を見れて、嬉しかったのに。
そんな気持ちとはうらはらに、わたしは渋い顔を作っている。
そうしながら、わたしはニッコリと微笑みを浮かべたみっこの綺麗な顔を、こっそりと見つめた。
頬の傷は、もうわからなくなっている。
いつもと変わらない…
ううん。
それ以上にチャーミングな笑顔。
どうして?
あれだけのことがあったというのに、さらに輝きを増したような素敵な笑顔で、どうして森田美湖は微笑むことができるんだろう?
わたしは爽やかに微笑む、みっこの口元を見た。
冴えたロゼカラーの口紅が、とっても印象的。
あ…
そう思ったのは二回目。
最初はもう、一年以上も前。
はじめてふたりで海に行ったときだった。
なんでそんなこと、憶い出しちゃったんだろう?
もう、すっかり忘れていたことなのに。
今の彼女の微笑みが、わたしたちが出会った頃のように、作られたようなよそいきの美しさだから?
つづく
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