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19 12月のダイアリー
12月のダイアリー 12月1日
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12月1日(日)雪
昨日から降りだした初雪は、とぎれとぎれに今日も降り続いている。
今日から12月だ。
9月のあの海で、川島君と交わした約束を思い出した。
『12月になって、雪が降ったら、また今日みたいに海を見て、このホテルに来て、暖めあいたいな』って、約束を。
海に降る雪が見たくて、わたしはそんなわがままを言ってみたんだけど、本当は約束で川島君を縛りたかっただけ。
窓の外にチラチラと舞い降りる雪を見ながら、わたしはふと思い立ち、鉄道とバスを乗り継いで、9月に川島君と行った海に、ひとりで出かけた。
もしかして…
川島君はあのときの約束を覚えていて、あの海でずっと、わたしのことを待ってくれているかもしれない。
去年の文化祭のときだって、その前にわたしがお別れの電話をかけたにもかかわらず、川島君はわたしとの約束どおり文化祭に来てくれて、一日中わたしのことを捜してくれた。
そんなやさしさ、情熱が、今でも少しは川島君の心に、残っているかもしれない。
もしそうなら、わたしと川島君は、今日からでもやり直せるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に秘めながら、わたしは海に向かった。
海には、だれもいなかった。
ただ、わたしの心に重くのしかかるように、水平線の向こうに鉛色に低く垂れこめた雲が、あの日、わたしたちの見た海を覆っている。
海に雪が降っているところなんて、少しも綺麗じゃなかった。
せっかく長い時間をかけて地上にまで降りてきた雪は、ただ、波に呑まれて、溶けてなくなるだけ。
そんな惨めな結末も知らないで、雪は降り続ける。
地上に降れば少しは積もることもできるだろうに、ほんのちょっとの運命の違いで、海に降る雪はただ、はかなく虚しく、消えてしまうだけ。
どうしてわたし、こんな景色が好きになりそうだなんて言ったんだろう。
ばっかみたい!
それでもわたしは日が暮れるまで、この寒い海の前に、佇んでいた。
本当は、期待していたのかもしれない。
ありえない運命の再会を。
それが今のわたしの、一縷の望み?
なんだか、惨め。
つづく
昨日から降りだした初雪は、とぎれとぎれに今日も降り続いている。
今日から12月だ。
9月のあの海で、川島君と交わした約束を思い出した。
『12月になって、雪が降ったら、また今日みたいに海を見て、このホテルに来て、暖めあいたいな』って、約束を。
海に降る雪が見たくて、わたしはそんなわがままを言ってみたんだけど、本当は約束で川島君を縛りたかっただけ。
窓の外にチラチラと舞い降りる雪を見ながら、わたしはふと思い立ち、鉄道とバスを乗り継いで、9月に川島君と行った海に、ひとりで出かけた。
もしかして…
川島君はあのときの約束を覚えていて、あの海でずっと、わたしのことを待ってくれているかもしれない。
去年の文化祭のときだって、その前にわたしがお別れの電話をかけたにもかかわらず、川島君はわたしとの約束どおり文化祭に来てくれて、一日中わたしのことを捜してくれた。
そんなやさしさ、情熱が、今でも少しは川島君の心に、残っているかもしれない。
もしそうなら、わたしと川島君は、今日からでもやり直せるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に秘めながら、わたしは海に向かった。
海には、だれもいなかった。
ただ、わたしの心に重くのしかかるように、水平線の向こうに鉛色に低く垂れこめた雲が、あの日、わたしたちの見た海を覆っている。
海に雪が降っているところなんて、少しも綺麗じゃなかった。
せっかく長い時間をかけて地上にまで降りてきた雪は、ただ、波に呑まれて、溶けてなくなるだけ。
そんな惨めな結末も知らないで、雪は降り続ける。
地上に降れば少しは積もることもできるだろうに、ほんのちょっとの運命の違いで、海に降る雪はただ、はかなく虚しく、消えてしまうだけ。
どうしてわたし、こんな景色が好きになりそうだなんて言ったんだろう。
ばっかみたい!
それでもわたしは日が暮れるまで、この寒い海の前に、佇んでいた。
本当は、期待していたのかもしれない。
ありえない運命の再会を。
それが今のわたしの、一縷の望み?
なんだか、惨め。
つづく
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