Campus91

茉莉 佳

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18 Rip Stick ~After side

Rip Stick 29

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「わたしが『星川先生の所で働くの?』って訊いたとき、川島君、『そんなことじゃない』って答えたじゃない! また嘘ばっかり!」
「ごめん。あれは… あのとき、さつきちゃんとまた、揉めそうだったから…」
「だから嘘つくわけ? 誤魔化したってすぐバレるのに!」
「さつきちゃんとは夏休みの前にも、東京に行く行かないで、さんざんケンカしただろ。そんなことで言いあうのは、ぼくはもう、イヤなんだよ」
「イヤなら嘘ついてもいいの? みっこのことも嘘ばっかり! 嘘に嘘を重ねられて。なにも知らないわたしがバカみたい!」
「そんな… やっぱり、今話すことじゃなかったな。ぼくだって迷ってるんだ。さつきちゃんを置いて、東京には行けないし…」
「いいわよ! 川島君は東京でもどこでも行けば。そしてなりたかったカメラマンになって、みっこを恋人にして写真でも撮ってればいいわよ。長崎でやってたみたいにっ!」
「さつきちゃん…」
「もういいっ。ふたりしてわたしのこと騙して。もう、いやっ!」

最後はもう、涙声だった。
もう、どうでもいい!
川島君が東京に行きたいのなら、行けばいいし、わたしと別れてみっことつきあいたいのなら、そうすればいい。

そりゃわたし、今でも川島君のことは好き。
だれよりも。

そう…
森田美湖よりも。

川島君とは、やっぱり別れたくない。
だれに渡すのも、イヤ。
たとえそれが、みっこでも。

だけどもう、耐えられない。
わたしの気持ちはこの人を求めてるけど、別の自分が、激しく拒んでる。
川島祐二といっしょにいることを、激しく嫌悪している。

みっこを呼ぶ声で話しかけられたくない。
みっこを見る目で見つめられたくない。
みっこを触れた唇で触れられたくない。
みっこを抱いた腕で抱かれたくない。

とにかく、今はいっしょにいたくない!

「クルマ、止めて。わたしここで降りる!」
「さつきちゃん」
「降ろして!」
「今ここで降りるってことは、ぼくたちが別れるってことだよ」
「いいじゃない。川島君はわたしと別れたいんだから」
「ぼくはそんなこと、言ってない」
「いっしょよ。東京に行くんでしょ」
「もうちょっと、落ち着いて話そう」
「イヤ! わたしもう、川島君のことなんか、どうでもいい」
「さつきちゃん」
「大ッキライよ! 川島君も! みっこも!」
「…」
「もう、別れましょ!」
「…」
「川島君とつきあった1年なんて、無駄だった。意味がなかった! 時間を戻して!」
「…」

その言葉に川島祐二はなにも言わず、どんなことがあっても今まで見せたことがなかった、諦めたような、冷めた表情でわたしを見て、プイと視線をはずし、言い放った。
「そうだな。みっこはいいよ。美人だし、理性的だし、ヒステリーなんか起こさない。さつきちゃんももうちょっと、みっこのこと、見習ったら?」
「早くクルマ止めてっ! 降りるっ!!」

森田美湖なんかと較べないで!
それが本心なのね?
やっぱり川島君は、わたしよりみっこの方がいいんだ!

『みっこのこと、見習ったら?』

それは、最後のひと言だった。
川島君はそれっきりなにも言わず、クルマを舗道に寄せて、スピードを落とした。

え?
本当にわたし、降ろされるの?
自分でそう言ったくせに、本当にそうなるのは、イヤ!
だけど『やっぱり降りない』なんて、今さら言えない。
もう、さいは振られたんだ。
口に出した言葉は、取り戻せない。
こぼれた水は、元に戻らない。


川島君がクルマを止めるとすぐ、わたしは黙って『フェスティバ』のドアを開けた。
彼の方も見ずに、うしろ手でバタンとドアを閉め、わたしはそのまま歩いていく。

『行くな。さつきちゃん』

わたしの背中で、そう呼び止める彼の言葉を、期待しながら…

つづく
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