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18 Rip Stick ~After side
Rip Stick 26
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「みっこ、大丈夫かな?
もう少し側にいてやった方が、よかったかもしれないな。
顔にアザができてたけど、仕事には差し支えないかな?」
まだ人通りのほとんどない、白く霞んだ肌寒い朝の街を『フェスティバ』で走りながら、川島祐二はずっと、森田美湖のことを気にかけていて、助手席のわたしに彼女の話ばかりしていた。
「川島君、どうやってみっこを見つけたの?」
「森の側を通りかかったとき、かすかに争うような声が聞こえたんだよ。みっこをあの森のなかで見つけたときは、ふたりの男ともみ合っているところで、押し倒されて服を破かれながらも、必死で抵抗していたんだ」
「…どうやって撃退したの? ふたりもの男を」
「そこらへんの棒切れを振りかざして、『やめろっ!』って後ろからぶん殴ったんだよ。不意をつかれたみたいで、ふたりともびっくりして、あわてて逃げていったよ。まあ、ぼくも必死だったから」
「勇気あるのね」
「そりゃ、みっこがあんな目にあってるのを見れば、だれでもそうするだろ」
「…そう。かもね」
「あと、みっこの名誉のために言っておくけど、ほんとに未遂だったんだよ。もう少し遅かったら危なかったけど、間に合ってよかった」
「…ふ~ん」
なにが『みっこの名誉のため』よ。
『みっこは池に落ちた』って、川島君はみんなを誤魔化そうとしたけど、『未遂だった』ってのも、嘘かもしれない。
みっこのあのショック具合は、やられたとしか思えない。
わたしにまで、嘘をついて…
どうしてそんなに、みっこをかばうの?
そんなにみっこが大事なの?
そりゃ、襲われているのを助けたのは、立派で、素晴らしいことだとは思う。
みっこも本当に気の毒で、なにかできることがあるのなら、わたしも力になってあげたいと思う。
だけど、昨夜からの川島君を見ていると、みっこを守ることばかりに懸命で、わたしのことなんて、これっぽっちも気に留めてくれていない。
ふたりキスして、そのあとだって、みっこにべったりくっついていて。
そんな光景を見せられて、わたしだって傷ついているというのに…
なんだか、不愉快。
「藤村さんとも話したんだけど、いちばんマズいのは、スキャンダルになることだと思うんだよ。こういう話って、たとえ未遂に終わったことでも、噂に尾ひれがついて、ひどい話になっていくからな」
「…」
「みっこのこれからのためにも、それは防がなきゃいけないだろ」
「…」
「幸い、みっこも軽い怪我だけですんだし、このことを知っているのは、ぼくたちと藤村さんと星川先生だけだ。それなら、だれにも知られないですむはずだよ」
「…」
「さつきちゃんも、絶対人に言うんじゃないよ」
「…」
「いいかい?」
「…」
「さつきちゃん。どうしたんだ?」
川島君の話になにも応えず、助手席で黙んまりをきめているわたしを、ようやくおかしいと気づいたのか、川島君は訝しげにわたしを見た。
「さつきちゃん。どうして黙ってるんだ?」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「なんとか言いなよ」
「…」
「さつきちゃん!」
「川島君… みっこにはやさしいのね」
「え? そりゃ、さつきちゃんの親友だし、こういうときはだれだって、そうするだろ」
皮肉っぽい口調でそう言ったのに、川島君は全然それに気づいていない。
わたしはますますイライラしてきた。
「嘘!」
「え? どうして?」
「…」
川島君の問いには答えず、口をとがらせて、わたしは昨夜のことを振り返る。
確かに、みっこのことは助けてあげないといけないとは思うけど、ふつう、男の人がただの友だちの女の子に、あそこまでする?
みっこの身づくろいをしてあげたり、破れたストッキングを脱がせてあげたり、キスをしたり…
そして…
「川島君。みっこのマンションも、部屋も… 知ってるのね」
「あ…」
つづく
もう少し側にいてやった方が、よかったかもしれないな。
顔にアザができてたけど、仕事には差し支えないかな?」
まだ人通りのほとんどない、白く霞んだ肌寒い朝の街を『フェスティバ』で走りながら、川島祐二はずっと、森田美湖のことを気にかけていて、助手席のわたしに彼女の話ばかりしていた。
「川島君、どうやってみっこを見つけたの?」
「森の側を通りかかったとき、かすかに争うような声が聞こえたんだよ。みっこをあの森のなかで見つけたときは、ふたりの男ともみ合っているところで、押し倒されて服を破かれながらも、必死で抵抗していたんだ」
「…どうやって撃退したの? ふたりもの男を」
「そこらへんの棒切れを振りかざして、『やめろっ!』って後ろからぶん殴ったんだよ。不意をつかれたみたいで、ふたりともびっくりして、あわてて逃げていったよ。まあ、ぼくも必死だったから」
「勇気あるのね」
「そりゃ、みっこがあんな目にあってるのを見れば、だれでもそうするだろ」
「…そう。かもね」
「あと、みっこの名誉のために言っておくけど、ほんとに未遂だったんだよ。もう少し遅かったら危なかったけど、間に合ってよかった」
「…ふ~ん」
なにが『みっこの名誉のため』よ。
『みっこは池に落ちた』って、川島君はみんなを誤魔化そうとしたけど、『未遂だった』ってのも、嘘かもしれない。
みっこのあのショック具合は、やられたとしか思えない。
わたしにまで、嘘をついて…
どうしてそんなに、みっこをかばうの?
そんなにみっこが大事なの?
そりゃ、襲われているのを助けたのは、立派で、素晴らしいことだとは思う。
みっこも本当に気の毒で、なにかできることがあるのなら、わたしも力になってあげたいと思う。
だけど、昨夜からの川島君を見ていると、みっこを守ることばかりに懸命で、わたしのことなんて、これっぽっちも気に留めてくれていない。
ふたりキスして、そのあとだって、みっこにべったりくっついていて。
そんな光景を見せられて、わたしだって傷ついているというのに…
なんだか、不愉快。
「藤村さんとも話したんだけど、いちばんマズいのは、スキャンダルになることだと思うんだよ。こういう話って、たとえ未遂に終わったことでも、噂に尾ひれがついて、ひどい話になっていくからな」
「…」
「みっこのこれからのためにも、それは防がなきゃいけないだろ」
「…」
「幸い、みっこも軽い怪我だけですんだし、このことを知っているのは、ぼくたちと藤村さんと星川先生だけだ。それなら、だれにも知られないですむはずだよ」
「…」
「さつきちゃんも、絶対人に言うんじゃないよ」
「…」
「いいかい?」
「…」
「さつきちゃん。どうしたんだ?」
川島君の話になにも応えず、助手席で黙んまりをきめているわたしを、ようやくおかしいと気づいたのか、川島君は訝しげにわたしを見た。
「さつきちゃん。どうして黙ってるんだ?」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「なんとか言いなよ」
「…」
「さつきちゃん!」
「川島君… みっこにはやさしいのね」
「え? そりゃ、さつきちゃんの親友だし、こういうときはだれだって、そうするだろ」
皮肉っぽい口調でそう言ったのに、川島君は全然それに気づいていない。
わたしはますますイライラしてきた。
「嘘!」
「え? どうして?」
「…」
川島君の問いには答えず、口をとがらせて、わたしは昨夜のことを振り返る。
確かに、みっこのことは助けてあげないといけないとは思うけど、ふつう、男の人がただの友だちの女の子に、あそこまでする?
みっこの身づくろいをしてあげたり、破れたストッキングを脱がせてあげたり、キスをしたり…
そして…
「川島君。みっこのマンションも、部屋も… 知ってるのね」
「あ…」
つづく
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