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18 Rip Stick ~After side
Rip Stick 23
しおりを挟むそのあとの川島祐二の行動は、迅速で的確だった。
「さつきちゃんがしっかりしないでどうする! すぐ戻るからみっこのそばにいてやってくれ」
呆然と座り込んでいるわたしを、叱りつけるように指図した川島君は、森の外に飛んでいった。
が、すぐに戻ってくると、濡らしてきたハンカチで、みっこのからだに付いた血や泥を拭ってやり、自分の着ていたカーディガンを羽織らせ、スカートを直して破れたストッキングを脱がせると、引きちぎられた泥まみれのショーツを拾って、自分のポケットに素早く突っ込んだ。
「行こう。さつきちゃん」
早口でそう言うと、川島君はみっこを抱えかかえるようにして、足早に歩きだす。
「どっ… どこへ?」
「駐車場。みっこを家に送るんだ。みっこも、それがいいだろう?」
川島君が尋ねると、みっこはうつむいたまま小さくうなずいた。
「うん。じゃあ、行こう。あ、そこのバッグ、さつきちゃんが持ってて。もう落ちている物がないか、よく探しといてくれ」
みっこに寄り添いながら、川島君は地面に転がっているバッグを差す。今はなにも考えず、わたしは黙って彼の指示に従った。
「いいか。さつきちゃん」
人目につかないように歩きながら、川島君は小声で言う。
「できるだけ自然に、でも人に会わないようにするんだ。なにか聞かれたら、『みっこが池に落ちた』って言うんだぞ」
「だけど、藤村さんたちには…」
「もう会ってきた。星川先生はいちばん近い駐車場に、ぼくのクルマを回してくれているはずだ。みっこの友だちのふたりの女の子には、打ち上げパーティに行ってもらって、『みっことさつきちゃんは行けなくなった』って、伝言頼んできた」
川島君は念を押すように、わたしを見つめる。
「いいな、さつきちゃん。みっこは、池に、落ちたんだ!」
川島君の迫力に気圧され、わたしはうなずくしかなかった。
たまたま出くわした知り合いの女の子をうまくやり過ごし、駐車場にたどり着くと、そこには藤村さんと星川先生が、赤い『フェスティバ』の中で待っていた。
わたしとみっこを後部座席に乗せると、川島君は星川先生と席を代わって運転席に着く。素早くイグニションキーを回し、ギアをローに入れると、カーコンポのスイッチを入れ、音楽を流した。
モーツァルトのハープとフルートのデュエット。
ゆったりとした静かなメロディが、心を落ち着かせてくれるよう。
クルマは街なかを縫うように走り、10分ほどでみっこのマンションの前に、ピタリと止まった。
「川島君。みっこのマンション、知ってたの?」
「…」
わたしの質問には答えず、川島君はみっこをかばいながら、マンションのエントランスに駆けこんだ。
「暗証番号は?」
「3253」
かすかな声で、みっこが答える。
川島君はオートロックに番号を打ち込み、扉を解除すると、足早にエレベーターに乗り込み、迷いなくみっこの部屋の階のボタンを押し、わたしにバッグから部屋のキーを出させて、彼女の部屋に向かった。
バタンと玄関のドアを閉じて、リビングのソファにみっこを座らせると、川島君はようやく安心したように、ほっと息をついた。
川島君のカーディガンにからだを包んだみっこは、わたしたちと視線を合わせるのを避けるように、ずっとうつむいたまま、部屋の隅を見つめている。
つづく
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