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18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 21
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「みっこ、来た?」
さらに5分くらい経って、川島君がハァハァと息を切らしながら、ロビーに戻ってきた。
「まだ! 外にもいなかったの?」
「どこにも」
「グラウンドの方にはいないみたいだったよ」
そう言って藤村さんも戻ってくる。
「じゃあ、裏山の方かもしれない!」
息つくひまもなく、川島君はまた外に出ようとする。
「わたしも捜す!」
そう言って、わたしもついて行こうとした。
「よし。みっこちゃんが見つかっても見つからなくても、9時にはここに戻ってくるようにしよう」
腕時計を見た藤村さんは、そう言ってわたしたちとは反対の出口へ向かった。
「わたしも行くわ。ナオミちゃんたちは、ここでみっこを待っててね」
「うん!」
星川先生もナオミたちを残して捜索に加わり、わたしたちはアリーナの外に出た。
夜のキャンパスは明かりを灯した模擬店がずらっと並んでいて、人通りも多くて賑やかだけど、キャンパスの回りに広がる森や丘は真っ暗で、人の気配はない。
「川島君。どうしよう…」
みっともない声を上げながら、わたしは川島君を見た。
彼も心なしか蒼ざめた表情で、わたしを少しでも安心させるように、『大丈夫だよ』と繰り返す。
そうよね。
案外みっこは、模擬店なんかにいて、友だちと話に夢中になってるのかもしれない。
『どうしたの? さつき。そんなに慌てて』
きょとんとした顔で、みっこがわたしを見る。
そうだったら、どんなにかいいだろう。
少しでも自分を落ち着かせようとして、そんな風に考えてみたけど、みっこを捜す足どりが知らず知らずのうちに速くなっていくにつれて、不安も増すばかりだった。
「みっこ知らない?」
「みっこ見なかった?」
いつか川島君ともはぐれ、見かけた知人を片っ端から捕まえては、わたしはみっこの行方を訊いた。
だけど、みんな首を横に振るだけ。
そうしているうちにもうすぐ9時。
わたしはいったん、アリーナに戻ろうと思い、キャンパスの裏の森へ続く小径を、小走りに走っていった。
そのとき、うっそうと繁った森の奥から、人の声が聞こえたような気がした。
緑の多い西蘭女子大キャンパスのなかでも、ここはいちばん森の深い所で、奥には小さな池もある。
昼間、みっこと歩いたときは明るく、樹々のざわめきもさわやかだったこの森も、夜は真っ暗で街灯もなく、大きな樹木のシルエットが、魔物か怪物のように道を塞いでいる。
「みっこ?」
怖さも忘れて、わたしは森のなかに入っていった。
「みっこ」
「みっこ?」
少し歩いて立ち止まっては、わたしは彼女の名を呼ぶ。
返事はない。
やっぱり気のせい?
なんだか泣き出してしまいそう。
みっこはどこに行ってしまったの?
「…」
そのとき、森のもっと奥の方から、かすかに人の気配がした。
『だれかいる!』
足音を殺して耳を澄ませながら、そちらに向かう。
つづく
さらに5分くらい経って、川島君がハァハァと息を切らしながら、ロビーに戻ってきた。
「まだ! 外にもいなかったの?」
「どこにも」
「グラウンドの方にはいないみたいだったよ」
そう言って藤村さんも戻ってくる。
「じゃあ、裏山の方かもしれない!」
息つくひまもなく、川島君はまた外に出ようとする。
「わたしも捜す!」
そう言って、わたしもついて行こうとした。
「よし。みっこちゃんが見つかっても見つからなくても、9時にはここに戻ってくるようにしよう」
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「わたしも行くわ。ナオミちゃんたちは、ここでみっこを待っててね」
「うん!」
星川先生もナオミたちを残して捜索に加わり、わたしたちはアリーナの外に出た。
夜のキャンパスは明かりを灯した模擬店がずらっと並んでいて、人通りも多くて賑やかだけど、キャンパスの回りに広がる森や丘は真っ暗で、人の気配はない。
「川島君。どうしよう…」
みっともない声を上げながら、わたしは川島君を見た。
彼も心なしか蒼ざめた表情で、わたしを少しでも安心させるように、『大丈夫だよ』と繰り返す。
そうよね。
案外みっこは、模擬店なんかにいて、友だちと話に夢中になってるのかもしれない。
『どうしたの? さつき。そんなに慌てて』
きょとんとした顔で、みっこがわたしを見る。
そうだったら、どんなにかいいだろう。
少しでも自分を落ち着かせようとして、そんな風に考えてみたけど、みっこを捜す足どりが知らず知らずのうちに速くなっていくにつれて、不安も増すばかりだった。
「みっこ知らない?」
「みっこ見なかった?」
いつか川島君ともはぐれ、見かけた知人を片っ端から捕まえては、わたしはみっこの行方を訊いた。
だけど、みんな首を横に振るだけ。
そうしているうちにもうすぐ9時。
わたしはいったん、アリーナに戻ろうと思い、キャンパスの裏の森へ続く小径を、小走りに走っていった。
そのとき、うっそうと繁った森の奥から、人の声が聞こえたような気がした。
緑の多い西蘭女子大キャンパスのなかでも、ここはいちばん森の深い所で、奥には小さな池もある。
昼間、みっこと歩いたときは明るく、樹々のざわめきもさわやかだったこの森も、夜は真っ暗で街灯もなく、大きな樹木のシルエットが、魔物か怪物のように道を塞いでいる。
「みっこ?」
怖さも忘れて、わたしは森のなかに入っていった。
「みっこ」
「みっこ?」
少し歩いて立ち止まっては、わたしは彼女の名を呼ぶ。
返事はない。
やっぱり気のせい?
なんだか泣き出してしまいそう。
みっこはどこに行ってしまったの?
「…」
そのとき、森のもっと奥の方から、かすかに人の気配がした。
『だれかいる!』
足音を殺して耳を澄ませながら、そちらに向かう。
つづく
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