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18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 20
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「大変っ!」
ふたりの姿が重い楽屋口のドアの向こうに消えるのを見届けたわたしは、大慌てで川島君に叫んだ。
「どうしたんだい? さつきちゃん」
藤村さんが訝しげに訊く。
「『去年の夏のナンパの人たち』って、さつきちゃんが前に話してくれた、ナンパ兄ちゃんのことか? みっこにさんざんな目にあわされたっていう」
ピンときた様子で、川島君が言った。
「そう! そのときの人たち。今、みっこのことを『ヤッてやる』なんて言って、楽屋の方へ行った!」
「そりゃ大変だ。早くみっこを捕まえないと」
川島君も驚いた。
「『ヤッてやる』なんて、物騒な言葉ね」
「なんだかわからないけど、とにかくみっこちゃんと早く合流した方が、いいみたいだな」
「藤村さん。お願いしますっ。楽屋にいるはずですから」
わたしたちが楽屋に向かいかけたとき、ナオミとミキちゃんがやってきた。
「あ~。さつきちゃ~ん。なんかいい男たちに囲まれてるぅ~」
「あっ、ナオミ。みっこ見なかった?」
早口でナオミに尋ねる。
「ううん」
「楽屋の方、だれかいた?」
「今から行くんだけど…」
「ナオミ、いっしょにみっこ捜すの、手伝って!」
「うん。いいけどぉ…」
「わたしも手伝います」
状況の見えていないナオミとミキちゃんにも加わってもらい、わたしたちはとりあえず、楽屋に急いだ。
楽屋にはだれもいなかった。
冷たい蛍光灯の灯った無機質なコンクリートの部屋は、シンと静まり返っていて、みっこはおろか、人の気配もなかった。
「あっ。あの花束」
ナオミがそう言って、小部屋が並ぶ通路の奥に走っていく。
見ると通路の非常口の前には、真紅の大きな薔薇の花束が落ちていて、まわりに花びらが散らばっている。そこには踏みつけられたような痕があった。
これは…
みっこが藍沢氏からもらった花束!
それがこんな所に落ちているなんて…
なんだかイヤな予感がする。
「もしかして外かもしれない。ぼくは外の方を捜してみるよ」
川島君はそう言って、非常口を飛び出す。
「じゃあぼくも、外を捜してみよう」
藤村さんも外に出て、川島君と反対の方向へ小走りに駆けていく。
「わたしはトイレとか見てくる!」
「さつきちゃん。あたしも行く!」
「わたしも手伝います」
わたしが駆け出すと、ナオミとミキちゃんもいっしょについてきた。
「じゃあ、わたしはみっこが来たときのために、ロビーで待ってるわね!」
星川先生は、みっこを捜しに出たわたしたちに叫んだ。
楽屋やホールのトイレをくまなく捜し、だれもいないことを確認して、わたしたちはとりあえずロビーの星川先生の所に戻り、そこでみっこや他の人たちを待った。
いつまで待っても、みっこは来ない。
あれからもう、10分以上が過ぎている。
「どうしよう、星川先生」
わたしは不安と緊張で語尾を震わせながら、すがるように星川先生を見上げた。
どうしてこんなことになってしまったの?
せっかくファッションショーもうまくいって、久し振りにみっこや川島君との一体感も感じて、わたしの気持ちもようやく落ち着いてきたっていうのに。
つづく
ふたりの姿が重い楽屋口のドアの向こうに消えるのを見届けたわたしは、大慌てで川島君に叫んだ。
「どうしたんだい? さつきちゃん」
藤村さんが訝しげに訊く。
「『去年の夏のナンパの人たち』って、さつきちゃんが前に話してくれた、ナンパ兄ちゃんのことか? みっこにさんざんな目にあわされたっていう」
ピンときた様子で、川島君が言った。
「そう! そのときの人たち。今、みっこのことを『ヤッてやる』なんて言って、楽屋の方へ行った!」
「そりゃ大変だ。早くみっこを捕まえないと」
川島君も驚いた。
「『ヤッてやる』なんて、物騒な言葉ね」
「なんだかわからないけど、とにかくみっこちゃんと早く合流した方が、いいみたいだな」
「藤村さん。お願いしますっ。楽屋にいるはずですから」
わたしたちが楽屋に向かいかけたとき、ナオミとミキちゃんがやってきた。
「あ~。さつきちゃ~ん。なんかいい男たちに囲まれてるぅ~」
「あっ、ナオミ。みっこ見なかった?」
早口でナオミに尋ねる。
「ううん」
「楽屋の方、だれかいた?」
「今から行くんだけど…」
「ナオミ、いっしょにみっこ捜すの、手伝って!」
「うん。いいけどぉ…」
「わたしも手伝います」
状況の見えていないナオミとミキちゃんにも加わってもらい、わたしたちはとりあえず、楽屋に急いだ。
楽屋にはだれもいなかった。
冷たい蛍光灯の灯った無機質なコンクリートの部屋は、シンと静まり返っていて、みっこはおろか、人の気配もなかった。
「あっ。あの花束」
ナオミがそう言って、小部屋が並ぶ通路の奥に走っていく。
見ると通路の非常口の前には、真紅の大きな薔薇の花束が落ちていて、まわりに花びらが散らばっている。そこには踏みつけられたような痕があった。
これは…
みっこが藍沢氏からもらった花束!
それがこんな所に落ちているなんて…
なんだかイヤな予感がする。
「もしかして外かもしれない。ぼくは外の方を捜してみるよ」
川島君はそう言って、非常口を飛び出す。
「じゃあぼくも、外を捜してみよう」
藤村さんも外に出て、川島君と反対の方向へ小走りに駆けていく。
「わたしはトイレとか見てくる!」
「さつきちゃん。あたしも行く!」
「わたしも手伝います」
わたしが駆け出すと、ナオミとミキちゃんもいっしょについてきた。
「じゃあ、わたしはみっこが来たときのために、ロビーで待ってるわね!」
星川先生は、みっこを捜しに出たわたしたちに叫んだ。
楽屋やホールのトイレをくまなく捜し、だれもいないことを確認して、わたしたちはとりあえずロビーの星川先生の所に戻り、そこでみっこや他の人たちを待った。
いつまで待っても、みっこは来ない。
あれからもう、10分以上が過ぎている。
「どうしよう、星川先生」
わたしは不安と緊張で語尾を震わせながら、すがるように星川先生を見上げた。
どうしてこんなことになってしまったの?
せっかくファッションショーもうまくいって、久し振りにみっこや川島君との一体感も感じて、わたしの気持ちもようやく落ち着いてきたっていうのに。
つづく
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