239 / 300
18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 18
しおりを挟む
「よしっと… 片づけも終わったわね」
いくつかの大きなトランクに、衣装と小物を全部詰め終えた小池さんは、軽く額に汗を滲ませている。
「お疲れさまでした。あたしはもう少し支度に時間がかかりますから、小池さんお先にどうぞ」
「そう? じゃあ、搬出もあるし、わたしは先に行くわね。打ち上げパーティは9時から学校前の『森の調べ』よ。みっこちゃんたちも来るでしょ?」
「ええ。あたしは行くけど…」
「あ。わたしも行きます」
「わかったわ。じゃあ、そのときにまた会いましょ!」
「はい。じゃあ、またあとで」
「じゃあ、お先に。お疲れさま!」
「お疲れさまでした~」
そう言いながら、小池さんは他のスタッフとたくさんのバッグを抱えて、楽屋を出ていった。
「そう言えば、さつきはロビーに川島君、待たせてるんじゃない?」
乱れた髪をセットしながら、みっこは思い出したように言う。
「あ。そうだった」
「あたし、まだ髪を直したりとかするから、先に行ってていいわよ」
「え? いいよ。みっこが終わるまで待ってるわ」
「さつきも打ち上げ、行くんでしょ?」
「うん」
「打ち上げパーティは、終わるの遅くなるかもしれないわ。そうしたら今日はもう、川島君とは会えないかもよ?」
「…そうね」
昼間、川島君とはあんな別れ方をしたから、なんとなく気まずい。
『ファッションショーのあと、ロビーで』って言ってくれたものの、ショーが終わって時間も経ったし、ちゃんと待っててくれているかも、わからない。
みっこの言葉で、わたしも少し不安になってきた。
今日のけんかを翌日まで持ち越したくないし、かといって、打ち上げには参加したいし…
みっこは少し心配顔で、わたしに言う。
「仲直りだけでも、ちゃんとしといた方がいいんじゃない?」
「…ん。 そうね。じゃあ、ちょっとロビーに行ってくるわね」
迷いながらも、わたしはそう答えた。
昼間のイヤな雰囲気を引きずったまま、川島君とずっと会えないでいるより、ショーが終わった今の、ハイな気分で川島君と話せば、少しは状況もよくなるかもしれない。とりあえず、川島君に会おう。
そう思い直して、わたしはみっこをひとり残して、楽屋を後にした。
運命の分かれ道は、そんなささいな所に潜んでいる。
思い返せば、それがわたしたちにとって、ひとつのターニングポイントだったのかもしれない。
「さつきちゃん、お疲れさま」
約束通り、川島君はちゃんとロビーで待っていてくれて、通用門から顔を見せたわたしに、暖かく声をかけてくれた。
川島君だけでなく、藤村さんと星川先生もいっしょにいる。
「とてもよかったじゃない。服のデザインも素敵だったし、わたしたくさん写真撮っちゃったわよ」
「みっこちゃんの独壇場だったね。やっぱりこういうステージじゃ、素人とプロの差は歴然だな」
「オープニングのあと、みっこちゃんがひとりでステージ持たせてたでしょ? あれはもしかして、演出じゃなくて、着替えにもたついてたからとか?」
「あのシーンか。演出は派手で面白かったけど、ちょっと無謀すぎたかもな。でもその無茶っぷりが、学生の特権でもあるんだよな」
ショーやみっこの感想を言い合いながら、しばらくはみんなロビーで立ち話をしていた。
つづく
いくつかの大きなトランクに、衣装と小物を全部詰め終えた小池さんは、軽く額に汗を滲ませている。
「お疲れさまでした。あたしはもう少し支度に時間がかかりますから、小池さんお先にどうぞ」
「そう? じゃあ、搬出もあるし、わたしは先に行くわね。打ち上げパーティは9時から学校前の『森の調べ』よ。みっこちゃんたちも来るでしょ?」
「ええ。あたしは行くけど…」
「あ。わたしも行きます」
「わかったわ。じゃあ、そのときにまた会いましょ!」
「はい。じゃあ、またあとで」
「じゃあ、お先に。お疲れさま!」
「お疲れさまでした~」
そう言いながら、小池さんは他のスタッフとたくさんのバッグを抱えて、楽屋を出ていった。
「そう言えば、さつきはロビーに川島君、待たせてるんじゃない?」
乱れた髪をセットしながら、みっこは思い出したように言う。
「あ。そうだった」
「あたし、まだ髪を直したりとかするから、先に行ってていいわよ」
「え? いいよ。みっこが終わるまで待ってるわ」
「さつきも打ち上げ、行くんでしょ?」
「うん」
「打ち上げパーティは、終わるの遅くなるかもしれないわ。そうしたら今日はもう、川島君とは会えないかもよ?」
「…そうね」
昼間、川島君とはあんな別れ方をしたから、なんとなく気まずい。
『ファッションショーのあと、ロビーで』って言ってくれたものの、ショーが終わって時間も経ったし、ちゃんと待っててくれているかも、わからない。
みっこの言葉で、わたしも少し不安になってきた。
今日のけんかを翌日まで持ち越したくないし、かといって、打ち上げには参加したいし…
みっこは少し心配顔で、わたしに言う。
「仲直りだけでも、ちゃんとしといた方がいいんじゃない?」
「…ん。 そうね。じゃあ、ちょっとロビーに行ってくるわね」
迷いながらも、わたしはそう答えた。
昼間のイヤな雰囲気を引きずったまま、川島君とずっと会えないでいるより、ショーが終わった今の、ハイな気分で川島君と話せば、少しは状況もよくなるかもしれない。とりあえず、川島君に会おう。
そう思い直して、わたしはみっこをひとり残して、楽屋を後にした。
運命の分かれ道は、そんなささいな所に潜んでいる。
思い返せば、それがわたしたちにとって、ひとつのターニングポイントだったのかもしれない。
「さつきちゃん、お疲れさま」
約束通り、川島君はちゃんとロビーで待っていてくれて、通用門から顔を見せたわたしに、暖かく声をかけてくれた。
川島君だけでなく、藤村さんと星川先生もいっしょにいる。
「とてもよかったじゃない。服のデザインも素敵だったし、わたしたくさん写真撮っちゃったわよ」
「みっこちゃんの独壇場だったね。やっぱりこういうステージじゃ、素人とプロの差は歴然だな」
「オープニングのあと、みっこちゃんがひとりでステージ持たせてたでしょ? あれはもしかして、演出じゃなくて、着替えにもたついてたからとか?」
「あのシーンか。演出は派手で面白かったけど、ちょっと無謀すぎたかもな。でもその無茶っぷりが、学生の特権でもあるんだよな」
ショーやみっこの感想を言い合いながら、しばらくはみんなロビーで立ち話をしていた。
つづく
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
タイムパラライドッグスエッジ~きみを死なせない6秒間~
藤原いつか
ライト文芸
岸田篤人(きしだあつと)は2年前の出来事をきっかけに、6秒間だけ時間を止める力を持っていた。
使い道のないその力を持て余したまま入学した高校で、未来を視る力を持つ藤島逸可(ふじしまいつか)、過去を視る力を持つ入沢砂月(いりさわさつき)と出会う。
過去の真実を知りたいと願っていた篤人はふたりに近づいていく中で、自分達3人に未来が無いことを知る。
そしてそれぞれの力が互いに干渉し合ったとき、思いもよらないことが起こった。
そんな中、砂月が連続殺人事件に巻き込まれ――
* * *
6秒間だけ過去や未来にタイムリープすることが可能になった篤人が、過去へ、未来へ跳ぶ。
今度こそ大事な人を失わない為に。
怒れるおせっかい奥様
asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。
可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。
日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。
そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。
コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。
そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。
それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。
父も一緒になって虐げてくるクズ。
そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。
相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。
子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない!
あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。
そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。
白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。
良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。
前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね?
ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。
どうして転生したのが私だったのかしら?
でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!
あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ!
子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。
私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ!
無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ!
前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる!
無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。
他の人たちのざまあはアリ。
ユルユル設定です。
ご了承下さい。
きんだーがーでん
紫水晶羅
ライト文芸
同じ短大の保育科に通う、政宗、聖、楓、美乃里の四人は、入学当初からの気の合う仲間だ。
老舗酒蔵の跡取り息子でありながら、家を飛び出した政宗。複雑な家庭環境の下で育った聖。親の期待を一身に背負っている楓。両親の離婚の危機に怯える美乃里。
それぞれが問題を抱えながらも、お互い胸の内を明かすことができないまま、気がつくと二年生になっていた。
将来の選択を前に、少しずつ明らかになってくるそれぞれの想い。
揺れ動く心……。
そんな中、美乃里の不倫が発覚し、そこから四人の関係が大きく変わり始めていく。
保育士を目指す男女四人の、歪な恋と友情の物語。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
闇のなかのジプシー
関谷俊博
児童書・童話
柊は人形みたいな子だった。
喋らない。表情がない。感情を出さない。こういう子を無口系というらしいが、柊のそれは徹底したもので、笑顔はおろか頬をピクリと動かすのさえ見たことがない。そんな柊とペアを組むことになったのだから、僕は困惑した。
深見小夜子のいかがお過ごしですか?
花柳 都子
ライト文芸
小説家・深見小夜子の深夜ラジオは「たった一言で世界を変える」と有名。日常のあんなことやこんなこと、深見小夜子の手にかかれば180度見方が変わる。孤独で寂しくて眠れないあなたも、夜更けの静かな時間を共有したいご夫婦も、勉強や遊びに忙しいみんなも、少しだけ耳を傾けてみませんか?安心してください。このラジオはあなたの『主観』を変えるものではありません。「そういう考え方もあるんだな」そんなスタンスで聴いていただきたいお話ばかりです。『あなた』は『あなた』を大事に、だけど決して『あなたはあなただけではない』ことを忘れないでください。
さあ、眠れない夜のお供に、深見小夜子のラジオはいかがですか?
サロン・ルポゼで恋をして
せいだ ゆう
ライト文芸
「リフレクソロジー」―― それは足裏健康法と呼ばれるセラピーである。
リフレクソロジー専門のサロン「ルポゼ」で働くセラピストの首藤水(しゅとう すい)
彼は多くのお悩みとお疲れを抱えたお客様へ、施術を通して暖かいメッセージを提供するエースセラピストだった。
そんな眩しい彼へ、秘めた恋を抱く受付担当の井手みなみ(いで みなみ)
果たして想いは伝わるのか……。
施術によって変化する人間模様、そして小さなサロンで起きる恋愛模様。
『ヒューマンドラマ×恋愛』
人が癒される瞬間を。
リライトトライ
アンチリア・充
ライト文芸
もしあなたが、一生涯を賭けてでも叶えたい夢に、破れてしまったらどうするでしょうか?
新しい夢を探す? 素晴らしいことだと思います。もし見つかればそれはとてつもない僥幸と呼べることでしょう。
何故なら、一生に一度、一番と決めていた夢への思いを断ち切り、並々ならぬ情熱を燃やせる夢と再び出逢えたからです。
そして、情熱を持って向き合うにまで至った新たな夢に、またも破れてしまった時、その人はどうなるのでしょう。
二度と、とまではいかないものの、すぐには立ち上がれない程のダメージを負うことでしょう。
さらに、生き甲斐をなくし、それでも死んでいないからなんとか生きている、と言えてしまうような状況で、そこで畳み掛けるように「あなたはもうすぐ死にます。自殺します」などという予言を受けた場合、その人はどうなるのでしょう。
これは夢破れ、新たな夢もまた破れ、生き甲斐をなくした所への自殺宣告。よりによってクリスマスイブなんかにその全てを受けた主人公「戸山秋色」の物語です。
自分の人生とはなんだったのか。あの時、選択を誤らなければ、もう少しマシな人生を歩めたのか。そして、どうして自分は自殺などに至ってしまうのか。
大人しく死を受け入れることを条件に、予言をもたらした少女は秋色を現在の記憶を持ったまま過去へと送る。
まだ自分が輝いていた時代で自分に気のあった女子を相手に狙うは脱童貞!!
そこで彼は友情、恋愛、トラウマ。様々なものと向き合い、挑戦していく。自分の人生に決着をつける為に。
人生やり直し系、目指せ脱童貞タイムリープファンタジー!
ライト文芸大賞参加中です。気に入って貰えたなら投票願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる