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18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 18
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「よしっと… 片づけも終わったわね」
いくつかの大きなトランクに、衣装と小物を全部詰め終えた小池さんは、軽く額に汗を滲ませている。
「お疲れさまでした。あたしはもう少し支度に時間がかかりますから、小池さんお先にどうぞ」
「そう? じゃあ、搬出もあるし、わたしは先に行くわね。打ち上げパーティは9時から学校前の『森の調べ』よ。みっこちゃんたちも来るでしょ?」
「ええ。あたしは行くけど…」
「あ。わたしも行きます」
「わかったわ。じゃあ、そのときにまた会いましょ!」
「はい。じゃあ、またあとで」
「じゃあ、お先に。お疲れさま!」
「お疲れさまでした~」
そう言いながら、小池さんは他のスタッフとたくさんのバッグを抱えて、楽屋を出ていった。
「そう言えば、さつきはロビーに川島君、待たせてるんじゃない?」
乱れた髪をセットしながら、みっこは思い出したように言う。
「あ。そうだった」
「あたし、まだ髪を直したりとかするから、先に行ってていいわよ」
「え? いいよ。みっこが終わるまで待ってるわ」
「さつきも打ち上げ、行くんでしょ?」
「うん」
「打ち上げパーティは、終わるの遅くなるかもしれないわ。そうしたら今日はもう、川島君とは会えないかもよ?」
「…そうね」
昼間、川島君とはあんな別れ方をしたから、なんとなく気まずい。
『ファッションショーのあと、ロビーで』って言ってくれたものの、ショーが終わって時間も経ったし、ちゃんと待っててくれているかも、わからない。
みっこの言葉で、わたしも少し不安になってきた。
今日のけんかを翌日まで持ち越したくないし、かといって、打ち上げには参加したいし…
みっこは少し心配顔で、わたしに言う。
「仲直りだけでも、ちゃんとしといた方がいいんじゃない?」
「…ん。 そうね。じゃあ、ちょっとロビーに行ってくるわね」
迷いながらも、わたしはそう答えた。
昼間のイヤな雰囲気を引きずったまま、川島君とずっと会えないでいるより、ショーが終わった今の、ハイな気分で川島君と話せば、少しは状況もよくなるかもしれない。とりあえず、川島君に会おう。
そう思い直して、わたしはみっこをひとり残して、楽屋を後にした。
運命の分かれ道は、そんなささいな所に潜んでいる。
思い返せば、それがわたしたちにとって、ひとつのターニングポイントだったのかもしれない。
「さつきちゃん、お疲れさま」
約束通り、川島君はちゃんとロビーで待っていてくれて、通用門から顔を見せたわたしに、暖かく声をかけてくれた。
川島君だけでなく、藤村さんと星川先生もいっしょにいる。
「とてもよかったじゃない。服のデザインも素敵だったし、わたしたくさん写真撮っちゃったわよ」
「みっこちゃんの独壇場だったね。やっぱりこういうステージじゃ、素人とプロの差は歴然だな」
「オープニングのあと、みっこちゃんがひとりでステージ持たせてたでしょ? あれはもしかして、演出じゃなくて、着替えにもたついてたからとか?」
「あのシーンか。演出は派手で面白かったけど、ちょっと無謀すぎたかもな。でもその無茶っぷりが、学生の特権でもあるんだよな」
ショーやみっこの感想を言い合いながら、しばらくはみんなロビーで立ち話をしていた。
つづく
いくつかの大きなトランクに、衣装と小物を全部詰め終えた小池さんは、軽く額に汗を滲ませている。
「お疲れさまでした。あたしはもう少し支度に時間がかかりますから、小池さんお先にどうぞ」
「そう? じゃあ、搬出もあるし、わたしは先に行くわね。打ち上げパーティは9時から学校前の『森の調べ』よ。みっこちゃんたちも来るでしょ?」
「ええ。あたしは行くけど…」
「あ。わたしも行きます」
「わかったわ。じゃあ、そのときにまた会いましょ!」
「はい。じゃあ、またあとで」
「じゃあ、お先に。お疲れさま!」
「お疲れさまでした~」
そう言いながら、小池さんは他のスタッフとたくさんのバッグを抱えて、楽屋を出ていった。
「そう言えば、さつきはロビーに川島君、待たせてるんじゃない?」
乱れた髪をセットしながら、みっこは思い出したように言う。
「あ。そうだった」
「あたし、まだ髪を直したりとかするから、先に行ってていいわよ」
「え? いいよ。みっこが終わるまで待ってるわ」
「さつきも打ち上げ、行くんでしょ?」
「うん」
「打ち上げパーティは、終わるの遅くなるかもしれないわ。そうしたら今日はもう、川島君とは会えないかもよ?」
「…そうね」
昼間、川島君とはあんな別れ方をしたから、なんとなく気まずい。
『ファッションショーのあと、ロビーで』って言ってくれたものの、ショーが終わって時間も経ったし、ちゃんと待っててくれているかも、わからない。
みっこの言葉で、わたしも少し不安になってきた。
今日のけんかを翌日まで持ち越したくないし、かといって、打ち上げには参加したいし…
みっこは少し心配顔で、わたしに言う。
「仲直りだけでも、ちゃんとしといた方がいいんじゃない?」
「…ん。 そうね。じゃあ、ちょっとロビーに行ってくるわね」
迷いながらも、わたしはそう答えた。
昼間のイヤな雰囲気を引きずったまま、川島君とずっと会えないでいるより、ショーが終わった今の、ハイな気分で川島君と話せば、少しは状況もよくなるかもしれない。とりあえず、川島君に会おう。
そう思い直して、わたしはみっこをひとり残して、楽屋を後にした。
運命の分かれ道は、そんなささいな所に潜んでいる。
思い返せば、それがわたしたちにとって、ひとつのターニングポイントだったのかもしれない。
「さつきちゃん、お疲れさま」
約束通り、川島君はちゃんとロビーで待っていてくれて、通用門から顔を見せたわたしに、暖かく声をかけてくれた。
川島君だけでなく、藤村さんと星川先生もいっしょにいる。
「とてもよかったじゃない。服のデザインも素敵だったし、わたしたくさん写真撮っちゃったわよ」
「みっこちゃんの独壇場だったね。やっぱりこういうステージじゃ、素人とプロの差は歴然だな」
「オープニングのあと、みっこちゃんがひとりでステージ持たせてたでしょ? あれはもしかして、演出じゃなくて、着替えにもたついてたからとか?」
「あのシーンか。演出は派手で面白かったけど、ちょっと無謀すぎたかもな。でもその無茶っぷりが、学生の特権でもあるんだよな」
ショーやみっこの感想を言い合いながら、しばらくはみんなロビーで立ち話をしていた。
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