Campus91

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
236 / 300
18 Rip Stick ~before side

Rip Stick 15

しおりを挟む
 ステージはみっこの独壇場。
つい今までのバックステージでの修羅場を、微塵も感じさせない。
春の女神のように明るく微笑みながら、アップテンポの曲に合わせて軽やかなウォーキングで、クルリクルリと小気味いいターンを重ねていく。
ウエストがきゅっと絞られた春色のサーキュラースカートが、みっこがターンするたびに、ふわりふわりと舞い上がり、花びらのようなシルエットを描いていく。
セットの途中だったヘアも、みっこは上手く纏めてふんわり感を出し、それが自然で、春のイメージにすごく似合っている。
ランウェイを春風のようにふわふわとウォーキングしながら、センターステージで踊るようにターンを繰り返し、客席にウィンクして投げキッスをしてみたり。
どれも、打ち合わせにないアドリブ。
なのに、とてもそうは見えない素敵なショーイングで、みっこはひとりで観客を魅了していた。

「ゴメン。緊張してアガっちゃって… お客さんが満員のステージって、リハーサルとは全然違うんだもん。わたしもう、ダメ」
振りを間違えたモデルが、ボロボロと涙をこぼし、顔を歪めてベソをかきながらすれ違った。
チームのメンバーが、彼女の肩をたたいて、慰めている。

「はぁっ。まったく、すごい子ね」
泣いているモデルを一瞥した小池さんは、ステージの袖から客席のみっこを見つめると、呆れたようにため息をついた。
「着替えがたったの40秒か。さすがね~」
「根本的な着替え方が違うよね。
他のモデルって、はだか見られるの恥ずかしがったりして、脱ぐのが遅いじゃない。その点森田さんは、あっぱれなくらいスパッと脱いでくれちゃって、やっぱりプロモデルは意識が違うわ」
他の4年生が小池さんのとなりにやってきて、みっこを褒めた。


 最大の修羅場をなんとか乗り切ってしまえば、あとのフィッティングは、ずっと楽だった。
小池さんの指示も的確で、衣装やアクセサリーもよく整理されていて、戸惑うこともない。
みっこも自分でサクサクと着替えをしてくれるので、気持ち的にも余裕ができ、みっこがステージに出てしまえば、袖の隙間からその様子をゆっくり眺めることもできた。

みっこが着る衣装は、全部で9着。
去年のファッションショーに出さなかった分を挽回するかのように、参加チームのコレクションのなかではいちばん多かった。

今年の小池さんのファッションテーマは、『ゴシック』。
女の子ならだれでも憧れる、中世のお姫様のようなアイテムをアレンジして、いろいろ盛り込んでみたらしい。
最近は『MILK』や『Jane Marple』といった、『ロリータファッション』と呼ばれるトレンドが注目されはじめてきたらしいけど、小池さんはそれに、バッスルスタイルやレースアップ、コルセットやクリノリンといった、中世の衣装の要素を取り入れてアレンジし、ドレスによってはクリベージ(胸の谷間)を強調して、女っぽさを出したりもしている。
色彩も、オープニングに着た漆黒のドレスから、ビビッドなプリント模様やパステルカラーと、とっても多彩。
ドレスは一点一点、ラインも丈もシルエットも違っているものの、『ゴシック』をテーマにして統一感を出している。
『ロリータ』っていうと女の子っぽい甘いイメージだけど、あまり幼くなりすぎず、中世独特の品格と、形式美のような優美さを醸しだしていて、それぞれ素敵なデザイン。
そしてみっこはひとつひとつのドレスを、それにいちばんふさわしいポーズをつけ、服のシルエットを見せながら、表現していく。
わたしみたいな素人が見たって、その表現力は、他のモデルとは差が歴然としていた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイムパラライドッグスエッジ~きみを死なせない6秒間~

藤原いつか
ライト文芸
 岸田篤人(きしだあつと)は2年前の出来事をきっかけに、6秒間だけ時間を止める力を持っていた。  使い道のないその力を持て余したまま入学した高校で、未来を視る力を持つ藤島逸可(ふじしまいつか)、過去を視る力を持つ入沢砂月(いりさわさつき)と出会う。  過去の真実を知りたいと願っていた篤人はふたりに近づいていく中で、自分達3人に未来が無いことを知る。  そしてそれぞれの力が互いに干渉し合ったとき、思いもよらないことが起こった。  そんな中、砂月が連続殺人事件に巻き込まれ――  * * *  6秒間だけ過去や未来にタイムリープすることが可能になった篤人が、過去へ、未来へ跳ぶ。  今度こそ大事な人を失わない為に。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

序列学園

あくがりたる
ライト文芸
第3次大戦後に平和の為に全世界で締結された「銃火器等完全撤廃条約」が施行された世界。人々は身を守る手段として古来からある「武術」を身に付けていた。 そんな世界で身寄りのない者達に武術を教える学園があった。最果ての孤島にある学園。その学園は絶対的な力の上下関係である「序列制度」によって統制され40人の生徒達が暮らしていた。 そこへ特別待遇で入学する事になった澄川カンナは学園生徒達からの嫌がらせを受ける事になるのだが…… 多種多様な生徒達が在籍するこの学園で澄川カンナは孤立無援から生きる為に立ち上がる学園アクション! ※この作品は、小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。加筆修正された最新版をこちらには掲載しております。

千里さんは、なびかない

黒瀬 ゆう
ライト文芸
天使の輪を作る、サラサラな黒髪。 握りこぶしほどしかない小さな顔に、ぱっちりとした瞳を囲む長いまつ毛。 まるでフィルターをかけたかのような綺麗な肌、真っ赤な唇。 特技はピアノ。まるで王子様。 ーー和泉君に、私の作品を演じてもらいたい。 その一心で、活字にすら触れたことのない私が小説家を目指すことに決めた。 全ては同担なんかに負けない優越感を味わうために。 目標は小説家としてデビュー、そして映画化。 ーー「私、アンタみたいな作品が書きたい。恋愛小説家の、零って呼ばれたい」 そんな矢先、同じ図書委員になったのは、なんと大人気ミステリ作家の零だった。 ……あれ? イージーモード? 最強の助っ人じゃん。 そんなわけが、なかった。

きんだーがーでん

紫水晶羅
ライト文芸
 同じ短大の保育科に通う、政宗、聖、楓、美乃里の四人は、入学当初からの気の合う仲間だ。  老舗酒蔵の跡取り息子でありながら、家を飛び出した政宗。複雑な家庭環境の下で育った聖。親の期待を一身に背負っている楓。両親の離婚の危機に怯える美乃里。  それぞれが問題を抱えながらも、お互い胸の内を明かすことができないまま、気がつくと二年生になっていた。  将来の選択を前に、少しずつ明らかになってくるそれぞれの想い。  揺れ動く心……。  そんな中、美乃里の不倫が発覚し、そこから四人の関係が大きく変わり始めていく。  保育士を目指す男女四人の、歪な恋と友情の物語。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

星と花

佐々森りろ
ライト文芸
【第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞】  読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校四年生の時、親友の千冬が突然転校してしまう事を知ったなずな。  卒業式であげようと思っていた手作りのオルゴールを今すぐ渡したいと、雑貨屋「星と花」の店主である青に頼むが、まだ完成していないと断られる。そして、大人になった十年後に、またここで会おうと千冬と約束する。  十年後、両親の円満離婚に納得のいかないなずなは家を飛び出し、青と姉の住む雑貨屋「星と花」にバイトをしながら居候していた。  ある日、挙動不審な男が店にやってきて、なずなは大事なオルゴールを売ってしまう。気が付いた時にはすでに遅く落ち込んでいた。そんな中、突然幼馴染の春一が一緒に住むことになり、幸先の不安を感じて落ち込むけれど、春一にも「星と花」へ来た理由があって──  十年越しに繋がっていく友情と恋。それぞれ事情を抱えた四人の短い夏の物語。

処理中です...