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18 Rip Stick ~before side
Rip Stick 6
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「ぶっちゃけ、最初に誘われたとき、かなり悩んだのよ」
「悩んだ? なにを?」
「川島君はさつきの彼氏だし、あたしは、文哉さんのことが好きでしょ。こういう言い方って失礼かもしれないけど、『変なことになったら困るな』って、最初に誘われたとき、ちょっと思ったの。でも、そんな心配全然なかったわ」
「…」
「あなたたちって、『離れていても、お互いを思いあってるんだな』って実感できたのが、川島君と長崎に行ったときの、あたしのいちばんの収穫だったかもね」
「…」
「ふふ。それだけ言いたくて、こんなところにきちゃった。さ。リハがはじまるから、もう行きましょ!」
みっこはそう言って素早く立ち上がると、パンパンとスカートについた草切れを払った。だけどわたしはいろんな思いが交錯して、胸が熱くなって、なかなか動きだせない。
『仲直りしたら?』
とか言うような押しつけがましいことを、直接言わないだけに、みっこがわたしと川島君のことを、ほんとに気にかけてくれていると、心から感じる。
そして、わたしたちが上手くいくことを、心から望んでくれている。
なんだか恥ずかしい。
そんなみっこを、ずっと疑っていて。
『あたしが好きなのは… 文哉さん』
って先週の夜、みっこから告白されても、心のどこかで、『みっこは嘘をついているんじゃないか?』とか、『ほんとは川島君が好きなのを、隠してるんじゃないか』って、疑ったりもしていたけど、それはわたしの思い違いだった。
『相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい』
だなんて、ボカした言い方するもんだから、てっきりわたしは、自分のことを遠回しに言われているんだと、勘ぐっていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
「みっこ。ごめんね… ありがとう」
丘の小径を先に下りていくみっこに、わたしは急ぎ足で追いつき、背中から声をかけた。
彼女は少し歩をゆるめたものの、立ち止まろうとはせず、
「…いいの」
と、わたしの顔も見ずに、ようやく聞きとれるくらいのか細い声で、応えた。
「みっこ… どうしたの?」
「ん? 別に… なんでもないわよ」
彼女は振り向きもせず、丘を下る。その背中は気のせいか、なんだか淋しげ。
わたしは気になって、みっこのとなりに並ぶと、彼女の顔をのぞきこんだ。
「みっこ?」
彼女はチラッとわたしを見返し、繕うように微笑む。
「あたしには、『モデル』っていう、大好きなお仕事があるから。それで幸せなのよ」
そう言ったみっこは、『さ、早く』とわたしを促し、アリーナへ向かった。
…そうか。
みっこは自分の恋の辛さをまぎらせるのに、精一杯なんだな。
そう言えばあの夜も、みっこは言っていた。
『もう会うまい、って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められない』
って。
あの夜、わたしの作ったケーキを食べながら、ポロポロと涙をこぼした彼女だった。
今日のみっこは、そんなことなどまるでなかったかのようだけど、今でも笑顔の裏には、『埋められない』気持ちがくすぶっているに違いない。
そんな報われない恋をしているみっこに、わたしと川島君のことが、羨ましく映るのも、当然のこと。
それなのにわたしは、ささいなことで川島君に当たったりして、なんて心が狭いんだろ。
そう。
ささいなことよね。
きっと…
川島君はわたしのことを愛してくれて、とっても大事に思ってくれているんだから、ふたりにとって重要な問題があるのなら、いつかはキチンと話してくれるわよね。
わたしは川島君が話してくれるのを、待っていればいいのよね。
そう考えれば、少しは気持ちを切り替えられるかもしれない。
みっこには感謝しなくちゃ。
つづく
「悩んだ? なにを?」
「川島君はさつきの彼氏だし、あたしは、文哉さんのことが好きでしょ。こういう言い方って失礼かもしれないけど、『変なことになったら困るな』って、最初に誘われたとき、ちょっと思ったの。でも、そんな心配全然なかったわ」
「…」
「あなたたちって、『離れていても、お互いを思いあってるんだな』って実感できたのが、川島君と長崎に行ったときの、あたしのいちばんの収穫だったかもね」
「…」
「ふふ。それだけ言いたくて、こんなところにきちゃった。さ。リハがはじまるから、もう行きましょ!」
みっこはそう言って素早く立ち上がると、パンパンとスカートについた草切れを払った。だけどわたしはいろんな思いが交錯して、胸が熱くなって、なかなか動きだせない。
『仲直りしたら?』
とか言うような押しつけがましいことを、直接言わないだけに、みっこがわたしと川島君のことを、ほんとに気にかけてくれていると、心から感じる。
そして、わたしたちが上手くいくことを、心から望んでくれている。
なんだか恥ずかしい。
そんなみっこを、ずっと疑っていて。
『あたしが好きなのは… 文哉さん』
って先週の夜、みっこから告白されても、心のどこかで、『みっこは嘘をついているんじゃないか?』とか、『ほんとは川島君が好きなのを、隠してるんじゃないか』って、疑ったりもしていたけど、それはわたしの思い違いだった。
『相手の女を裏切ることになる。それがいちばん悲しい』
だなんて、ボカした言い方するもんだから、てっきりわたしは、自分のことを遠回しに言われているんだと、勘ぐっていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
「みっこ。ごめんね… ありがとう」
丘の小径を先に下りていくみっこに、わたしは急ぎ足で追いつき、背中から声をかけた。
彼女は少し歩をゆるめたものの、立ち止まろうとはせず、
「…いいの」
と、わたしの顔も見ずに、ようやく聞きとれるくらいのか細い声で、応えた。
「みっこ… どうしたの?」
「ん? 別に… なんでもないわよ」
彼女は振り向きもせず、丘を下る。その背中は気のせいか、なんだか淋しげ。
わたしは気になって、みっこのとなりに並ぶと、彼女の顔をのぞきこんだ。
「みっこ?」
彼女はチラッとわたしを見返し、繕うように微笑む。
「あたしには、『モデル』っていう、大好きなお仕事があるから。それで幸せなのよ」
そう言ったみっこは、『さ、早く』とわたしを促し、アリーナへ向かった。
…そうか。
みっこは自分の恋の辛さをまぎらせるのに、精一杯なんだな。
そう言えばあの夜も、みっこは言っていた。
『もう会うまい、って心に決めるんだけど、それでも会えない苦しさの方が辛くて、他のなにでもその気持ちは埋められない』
って。
あの夜、わたしの作ったケーキを食べながら、ポロポロと涙をこぼした彼女だった。
今日のみっこは、そんなことなどまるでなかったかのようだけど、今でも笑顔の裏には、『埋められない』気持ちがくすぶっているに違いない。
そんな報われない恋をしているみっこに、わたしと川島君のことが、羨ましく映るのも、当然のこと。
それなのにわたしは、ささいなことで川島君に当たったりして、なんて心が狭いんだろ。
そう。
ささいなことよね。
きっと…
川島君はわたしのことを愛してくれて、とっても大事に思ってくれているんだから、ふたりにとって重要な問題があるのなら、いつかはキチンと話してくれるわよね。
わたしは川島君が話してくれるのを、待っていればいいのよね。
そう考えれば、少しは気持ちを切り替えられるかもしれない。
みっこには感謝しなくちゃ。
つづく
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